betty wright
<Clean Up Woman>のヒットで知られ、昨今ではジョス・ストーンのデビューにも手を貸すなどして再び存在感を高めているマイアミのソウル・ディーヴァ、ベティ・ライト。<Clean Up Woman>をレコーディングした時はまだ弱冠17歳で、そこから数年間は順調なキャリアを送っていたが、彼女が所属するレーベル:Alstonの親会社でマイアミ・ソウルの本拠T.K. Recordsが放蕩経営に沈むと、大手エピックへの移籍を余儀なくされた。最近になって以前のマイアミ時代の初期作復刻が進む中、ようやくエピックで80年代初頭にリリースした2作品が初CD化となっている。

そのエピックでの1作目が、81年作『BETTY WRIGHT』だ。おそらくエピックとしては、レーベルの威信を掛けてメジャー感溢れる作品に仕上げたかったのだろう。アルバム全体のプロデュースを元ルーファスのアンドレ・フィッシャーに委ね、そこにベティの交友関係を生かしたキャストを配す。そんな構図だったと思う。バック・コーラスでシェリル・リンやティーナ・マリー、フィリス・ハイマン、ギターでネッド・ドヒニーやバジー・フェイトンらが参加したのも、フィッシャーのL.A.人脈の広さゆえだろう。

とはいえアルバムの看板は、スティーヴィー・ワンダーが提供してプロデュースまで行なった<What Are You Going To Do With It>。鍵盤類もスティーヴィー自身(ac.pianoのみビル・ウルファー)のプレイで、ジェリー・ヘイ/アーニー・ワッツらのホーンが効いているせいか、何処か<Isn't She Lovely>に通じるシャッフル調の明るいブギー・チューンに仕上がった。これがR&Bチャート42位止まりとは些か不本意ながら、出来はさすがにベティとスティーヴィーのコンビと思わざるを得ない。

作曲陣も興味深く、ソロ・シンガーとして売れ始めたリチャード・ディンプル・フィールズが2曲提供。うち<I Like Your Lovin'>は、デニース・ウィリアムスを髣髴させる意外なキュートさで迫る。キャリアは長くても、この時ベティはまだ27〜28歳なのだ。<Give A Smile>で聴ける超ハイトーンは、マジ、デニースか、もしくミニー・リパートンかって感じで、初めて聴いた時はかなりビックリした。アース・ウインド&ファイアーやマドンナへの楽曲提供で知られるジョン・リンド(元フィフス・アヴェニュー・バンド)と、同年モーリス・ホワイト主宰のARCレーベルからソロ・デビューするラリー・ジョン・マクナリーが共作した<Indivisible>は、前年にD.J.ロジャースが歌っていたもの(彼もARC所属)。バリー・マニロウへの楽曲提供で名を挙げた英国人ソングライター:リチャード・カーも、<I Come To You>を書いている。

そうしたところに乗ってくるのが、ベティならではのマイアミ人脈と、実は音楽ファミリーであるライト家の面々。ボビー・コールドウェルがギター/ヴォーカルで参加し、ベティ自身の書き下ろし<Make Me Love The Rain>で “あれっ、今のスティーヴィー?” というソウルフルなカメオ・ヴォーカルを披露する。ベースでジミー・ハスリップが参加したのも、イエロージャケッツやアンドレ人脈というより、ボビーの流れかも? ベティの兄弟姉妹(?)たちも、楽曲提供やバック・コーラスで多大な貢献。近年クラブ方面で再評価されているミルトン・ライトは彼女の兄弟だし(本作には不参加)、曲作りに名を連ねるマイケル・ノリス・ライトやフィリップ・L・ライトが弟たちなのも分かっている。ライト姓の女性コーラス陣も、妹とか従姉妹とか、そんな関係だろう。マイアミの音楽一家だったライト家は、かのジャクソン・ファミリーとも親交があったらしく、ここにティト・ジャクソンが参加したのも納得。今回同時初CD化となった次作『BACK AT YOU』は、主にマーロン・ジャクソンの制作だった。

従来のベティのイメージからすると、かなりブラック・コンテンポラリー寄りと受け取れる一枚。でも、初期のマイアミ・ディーヴァ的な楽曲はイナタ過ぎると思っていた方々も、このアルバムなら聴きやすい。ゴスペル・ルーツの歌い口に大きな変化はないが、アーバンな80年代スタイルとも良好なマッチングを見せたのが本作のミソ。ボーナスにアルバム未収など5曲が追加されたのも美味しい。

『BACK AT YOU』以後のベティは、自分でレーベルを立ち上げて若干スケール・ダウンしてしまうが、80年代のうちから逸早くインディペンデントな基盤を築いていたのだから、これは先見の明アリ。そうしたプロデューサー的資質が、今の彼女のポジションに繋がったのは疑いない。