thundercat
大きな期待と若干の不安が入り混じりつつ、心待ちにしてたサンダーキャットの新作『DRUNK』。リード・シングル<Show You The Way>が発表され、そこにマイケル・マクドナルド&ケニー・ロギンズのヴォーカルがフィーチャーされていると知った時、カナザワは内心、ロケット砲で宇宙の果てまでぶっ飛んで行った感覚があった。が、ボーダーレス感性で新しい音に耳を尖らせている一部フリークを除き、AORファンの大半は「???」だったと思う。「え、サンダーキャットって誰?」ってな具合で。

しかも同時に公表されたアートワークが、ちょいグロなコレ。ピュアなAORファンは、思いっ切り引いてしまったに違いない。それこそ、コッポラ映画『地獄の黙示録』のカーツ大佐を思い出したりして…。

でもサンダーキャットを知っていて、近作も聴いてたカナザワも、このコラボにはいささか「???」だった。彼に近しいケンドリック・ラマーやフライング・ロータス、話題のサックス奏者カマシ・ワシントン、それに今をトキめくロバート・グラスパーなど、いわゆるフィーチャー・ジャズ系の誰を取っても、こうした結び付きは見られない。ポップス・ファンの目をそっち方面に向かせたデヴィッド・ボウイ『★』も、またしかり。

その辺りは、Jazz The New Chapterの柳樂さんが書かれたライナーの中に、サンダーキャット自身の言葉で書かれている。

「レコーディングするときに、わざとマイケル・マクドナルドを物まねしてヴォーカルをレコーディングすることがよくあったくらいのファンなんだ。彼らは俺のヒーローなんだよ」

そしてケニーの曲では、<I Beleieve In LOve>と<Heart To Heart>が好きとも。コラボの直接のキッカケは、エンジニアがケニーと共通の知り合いだったところから。ちょうどケニーの娘がこの手の音楽のファンだったため、ケニーも一緒に仕事をすることに興味を持ち、スタジオ・ワークを進める段階でマイケルを誘った、という流れらしい。

ベース奏者としては、スタンリー・クラークに近いタイプで、フレットの高いところで高速フレーズを続々繰り出すサンダーキャット。でもヴォーカルは線が細く、言わばカーティス・メイフィールド風だ。そこで自ら歌うなら、という前提で、こうした70〜80's的なメロウ・スタイルに向かったと思われる。ケンドリック・ラマーと仕事をしてから自分の歌に自信が芽生え、「自分らしく、ユニークな歌い方をしてもイイんだ、と思えるようになった」と言う。

その結果、ヴォーカルに重きを置きつつ、演奏もジャズ的インタープレイ中心からスタジオで綿密に構築していくようスタイルの楽曲が増えた。
「今回は確かに作曲にフォーカスした。自然に流れるようなサウンドにしたかった」

…とはいえ、それをロートルな耳のエルダーAORファンが聴いても、よく分からない気がする。メロディだけ抽出すれば、なるほど!という旋律が流れているが、サウンドメイクはヒップホップやフィーチャー・ジャズのそれ。モコモコしたベースにブーミーなドラム、チキチキのクリック音、浮遊感いっぱいのハーモニーにピアノの乱れ弾き…。時にアンビエントなシーンや黎明期テクノのような音も飛び出してくる。その半ばカオスな音世界には、整合感のある音に慣れてしまったAOR/スムーズ・ジャズ・ファンは、かなり取っ付きにくいだろう。

でもある程度馴染んでしまえば、そこからいろいろなコネクションが見えたり聴こえたり。<Bubs In These Streets>や<A Fan's Mail>の向こうにはやはり80'sの響きがあるし、<Tokyo>はまだ10代だったサンダーキャットが日本へ初めて来た時の印象を曲にしたものとか。実はこの人、先ごろ亡くなったリオン・ウェアの初来日に、ベースで同行していたのだ。そういう正統的な面もシッカリ持っている人なのである。

オールドな AORエイジは、メインストリームAORを足場にジャーニー方面へ行ってしまうのだろうけど、逆にオーレ・ブールードあたりをステップにして、このサンダーキャットやカマシ周辺、あるいはスナーキー・パピーやハイエイタス・カイヨーテあたりにまで自由に足を伸ばせる人は、素敵な耳を持っている人だと自分は思うな。

さて、夜は夜で、3月1日:未唯mieの日 Presents 『裏ピンク』アンコール@目黒Blues Alley Japanにお呼ばれ。ピンク・レディ時代のシングルB面曲や、アルバム収録から隠れた名曲にスポットを当てる企画ライヴだ。そこは完全門外漢の自分ながら、キメごとがやたら多い歌謡ポップスに挑むメンバーたちの熱演が面白く。ラインナップは、バカボン鈴木(b)、土方隆行(ds)、鶴谷智生(ds)、宮崎裕介(kyd)、才恵加(t.sax)、金原千恵子(vin)、笠原あやの(cello)、佐々木久美(Org/Cho)、鈴木佐江子、TIGER、佐々木詩織(cho)と、顔見知り率もそこそこ。アンサンブルは当然バッチリだけど、特に鶴谷さんのパワフルでキレのあるドラムと、弦入りのゴージャスなアレンジ、そしてもちろんアイドル然としたコスチュームで熱く歌い踊る未唯mieさんに感心した。今回はテーマが絞り込まれていたけど、未唯mieさん恒例の新春公演のボーダーレスなパンキッシュなスピリットは、サンダーキャットや他のフィーチャー・ジャズ勢とも共通点があるような…。

あ、そうそう、『DRUNK』のアナログ盤は、10インチのレッド・ヴァイナル2枚組だそーです。う〜ん、買うのか?>自分