sinkeys
J-POPシーンを裏から支えた名アレンジャーにして名キーボード奏者、新川博。70年代半ばからハイ・ファイ・セットのバックを務め、ユーミン・ツアーのバンド・マスターを経て、80年代以降は数多のレコーディングで作編曲家として活躍。原田知世、中原めい子、小林麻美、カルロストシキ&オメガトライブ、菊池桃子、SMAP等など、数え切れないほどのヒット曲を手掛けた。カナザワとは、2000年にビクター傘下に設立されたaosis records での仕事がご縁。当ブログではお馴染み、sparkling☆cherryのサウンド・プロデューサー候補に新川さんの名を挙げたのも、実はカナザワだった。

その新川さんが、自分のバンド:The Sinkeys (Bass:六川正彦/Drums:濱田尚也)を率いて、自身のレーベルから久々のリーダー作『ebisu』をリリース。早速に聴かせて戴いた。ポイントはフェンダー・ローズにこだわり、その透明感溢れるトーンの素晴らしさを凝縮したこと。そのためギターやサックスは入れず、すべての演奏を “ピアノ・トリオ” ならぬ “エレピ・トリオ” で通している、そしてココぞ、という部分にだけ、オルガンやアナログ・シンセを効果的に被せたのだ。

70年代の瑞々しいクロスオーヴァー・サウンド(AORやシティ・ソウルなども含む)が駆逐されてしまったのは、シンセサイザーの進化と不可分。メロディやソロ楽器として、あるいは鍵盤ベースとしてシンセは大変有効だったし、アナログ時代のストリングス・シンセもクールだった。でもヴォイシングが自由になると、分厚くなった音の壁の前に揺らめくようなローズの響きは掻き消されてしまうように…。ドラムのゴースト・ノート、ギターの細かいカッティングもまた然り。この傾向が進んだ先に、産業ロック〜アリーナ・ロックの隆盛が訪れる。90年代になってレア・グルーヴが流行り、ヴィンテージなサウンドが再評価されるようになった時、ローズやオルガン、あるいは生のストリングスが持て囃されたのは、いわば必然であった。

ボブ・ジェームスにジョー・サンプル、チック・コリア、ハービー・ハンコック、リチャード・ティー、英国ではマックス・ミドルトンなど、ローズやウーリッツァーといったエレキ・ピアノに一家言持つ鍵盤奏者は70年代に多くいた。近年の日本では、鈴木茂との共演歴もあるIno Hidefumi(猪野秀史)がローズに強い愛着を示しているが、ヴィンテージなローズを何台も買い集めてレストアし、レコーディングやライヴで使っているのは、きっと新川さんくらいだろう。このアルバムでも、よく知られたMark1より前のSilver Topという初期モデル(1967年製)を使用。それを今の最新テクノロジーでレコーディングし、よりヴィヴィッドなローズ・サウンドを楽しませてくれる。ドラムがライト、ベースがレフト、ピアノがセンターと、60年代風のステレオ定位になっているのが、また面白くて。

リーダー作としては、aosis時代に出した2作に次ぐアルバム。楽曲は、原点回帰を目指して最近書き下ろされた新曲ばかりで固めている。つまり、日本発信の洋楽ポップス的メロディを持ったインストゥルメンタル作品。…とはいえ、いわゆるスムーズ・ジャズほどにはムードに流れず、厳選された一音一音に含蓄が込められている。ゆったりしたグルーヴのマテリアルが多いのに、メロディはとても饒舌で、耳を捉えて離さない。

言ってしまえば、メジャー・レーベルでは到底発信できなかったような作品。でもこのアルバムの価値は、もっと別の次元にある。新川さんも、ある意味採算を度外視してでも、本当に納得できる作品を出したかったのだろう。彼ほどのキャリアと実績を持つ音楽家が、残されたミュージシャン人生を見つめながら本気で取り組んだ一枚。その違いが分かる人は、是非お手に取ってほしい。

ちなみに『ebisu』は、新川さんが生まれ育った街です。

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