john mayer 017

コイツはヤバイ

それがカーFMで<Still Feel Like Your Man>を初めて聴いた時の第一印象。エンジンをかけた瞬間に流れてきたので、最初は誰の曲か分からず、曲終わりもそのままジングルに突入し…。声の感じからジョン・メイヤーかな?と察しはついたが、旧作群を深く聴き込んでいるワケではないので、「アレ、こんなにイイ曲あったっけ?』 そこですぐにステーションのサイトにアクセスし、新曲だと分かった。

うわぁ〜、このトロけるようなシティ・ソウル的メロウネス、
かなりAORっぽいじゃないの〜
…ってなワケで、心待ちにしていたジョン・メイヤーの新作が到着。ノッケからお目当の<Still Feel Like Your Man>で、う〜ん、大満足 実はFMで聴いた直後にサンプラーが送られてきて、密かにヘヴィ・ローテーション化していたが、フル・アルバムで聴くとまた味わいは格別。こりゃー、アナログ盤もゲットしちゃいますかね

ご存知のようにラリー・カールトンが認めるほどのギター弾きでもあるジョンは、元からソウルやジャズの香りをホンノリ漂わせたシンガー・ソングライター表現が得意で。そうした意味では、何処かジェイムス・テイラーに通じる音楽性を持っていた。が近年は、カントリーやアメリカーナ寄りのアーシーな路線を敷いて、現行アメリカン・ポップ・シーンの動向に寄り添う姿勢を見せていた。それだけに、初期の頃のバラエティに富んだスタイルに回帰しつつ、キャリアを重ねて一歩も二歩も深くなった音楽表現を提示したこのアルバムに、あっさり感化されている。

作品としては約3年ぶりの7作目。バックにはジョン・メイヤー・トリオの盟友スティーヴ・ジョーダン(ds)、ピノ・パラディーノ(b)に、ラリー・ゴールディングス(kyd)、グレッグ・リーズ(pedal steel)といったスペシャリストが名を連ねる。いつになく制作に時間が掛かったのは、ケイティ・ペリーとの完全破局があり(別れと復縁を繰り返した)、その傷心を楽曲へと対象化したため。きっと精神的にツラい作業だったと思うが、そこを通り抜けてきたからこその説得力が、このアルバムには宿っている気がするのだ。チャクラが描かれた内省的アートワークは、言わばそのシンボルかも。収録曲の多くが悲しい気持ちを歌っているマテリアルだが、ただ俯いているだけじゃなく、柔らかな感触でシッカリ前向きな目線を持っているから馴染みやすい。<Still Feel Like Your Man>にしても、家を出て行った女性に未練タラタラな詞なのだが、それが甘美なコードワークでマイルドに聴かせてしまうワケだ。

音楽的に多彩さを有するアルバムだし、これを以って “そのものズバリのAOR” とは言えない。でもスタイルではなく、音楽そのものの有り様で捉えるなら、この作品は立派に “今ドキのAOR” になっている。かつてノラ・ジョーンズのデビュー・アルバムがそうだったように。