jimmie spheeris
あーあ、折角のゴールデン・ウィークなんだから、このジャケのようにゆったり波にたゆたうていたいわぁ〜。ついでに、プールサイドに美女でも控えていたなら、もう他に何もいらない… でも現実は、ほぼ例年通りに書きモノが集中。連休明けに多くの締切を抱え、5月上旬まで1日1本以上のハイペースでライナーノーツを書き上げていかないと…。でもストレスが溜まって頭がウニになると、一転して全然はかどらなくなるから、途中一日くらいは現実逃避しようかと…

さて、このライトブルーのプールにふんわり浮かぶ、日焼けした髭面の怪しいオッサン… 彼はジミー・スフィーリスといって、ギリシャの血筋を引く1949年アラバマ州フェニックス・シティ生まれのシンガー・ソングライター。在りし日のローラ・ニーロと親しくなったり、リッチー・ヘヴンスのツアーに参加したり、ジャクソン・ブラウンやスティーヴ・ヌーナン、パメラ・ポーランドと交友関係を持ったり…。71年にソロ・デビューし、76年の上掲作『PORT OF THE HEART』が4作目に当たる。今回それが、久々の Light Mellow's Choiceシリーズ(from VIVID SOUND)で紙ジャケ・リリースされた。

CD再発は初めてではなく、02年にソニー【洋楽秘宝館】で出たり、その後も英BGOから2in1で出たりしているが、わざわざ我がシリーズで出すくらいだから、ただのシンガー・ソングライター物でないことは明白。過去3作にもラスカルズのフェリックス・キャヴァリエがプロデュースしていたアルバムや、チック・コリアがピアノで参加するアルバムがあった。つまりジミー・スフィーリスは、ちょうどジェイムス・テイラーやネッド・ドヒニーのように、シンプルな弾き語り表現から音楽性を広範に広げようとした、ユニークなシンガー・ソングライター。そう言われれば、このジャケットのセンスはネッドの『HARD CANDY』に通じてはいまいか? インサートのフォト・セッションでも、無造作に伸ばしたロン毛にオシャレなツー・タックのチノパンというアンバランスな出で立ちが捕らえられている。

今作のプロデュースは、今や大物アレンジャー、特に弦の達人として著名で、かのベックの父親としても知られるデヴィッド・キャンベル。録音は無名のツアー・メンバー中心ながら、オープニング<Child From Nowhere>には再登板チック・コリアとスタンリー・クラーク、ドラムのジョン・ゲランが参加。リターン・トゥ・フォーエヴァー+L.A.エキスプレスの陣容でジャジーなテイストを醸し出す。またクラリネットやヴィオラを配したオーガニックなスロウ・チューン<It’s You They’re Dreaming Of>では、ジャクソン・ブラウンが控えめにコーラスを付けた。<Bayou Eyes>では、元インクレディブル・ストリングス・バンドのロビン・ウィリアムソンによるウードの音が印象的。カヴァーが2曲あって、ひとつはジミー・エドワーズが2度ヒットさせ、クリフ・リチャード、フォー・トップスに山下達郎が歌い継いだ<It’s All In The Game>。もう1曲はカントリーの大御所ハンク・ウィリアムスの<I’m So Lonesome I Could Cry>で、ジョニー・ティロットソン、B.J.トーマス、グレン・キャンベル、レオン・ラッセル(ハンク・ウィルソン名義)、テリー・ブラッドショウ、ジェリー・リー・ルイスらがリメイク、矢野顕子も歌っている。

84年にバイクを運転中、飲酒運転の車に衝突され、34歳で世を去ったジミー・スフィーリス。死後30数年が経っても、こうして歌声が次世代へと届けられているのだから、彼もきっと本望だろう。

あぁ、それにつけても、オレだってフローターに寝そべってプールに浮かびたいものよ… ちなみにこのジャケは、収録曲<Emerald ANd The Dream Dance>の歌詞の一部から来ているよう。そこではこう歌われている。

 エメラルドのような瞳は、溺れそうなプールのように深く、
 心の奥底の涙もキレイに洗い流してしまう…