bacharack toniok
仕事尽くしで終わりそうな大型連休の最後は、少し前にサンプルが届いていた海外リリース物を一点。デヴィッド・フォスター・ソングブック『FLY AWAY』、トム・スノウやスティーヴン・ドーフといった職人ソングライターたちのデモ・トラック集を発掘・発表している スペインのインディ・レーベル:Contante & Sonante からの新作で、何とバート・バカラック&トニオ K. のオリジナル・デモ集である。この連休中、キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ワイルと解説を書いていて、そのタイミングでバカラックのデモ集が届くという、何だかビックリするようなスゴい展開に、少し慰められたりして…

さて、近年はオリジナル作発表やツアーに出るほか、エルヴィス・コステロ、ロナルド・アイズレーなどとのコラボ作を出し、まったく衰えを見せない説明不要の名匠バート・バカラック。でも、相方のトニオK.って誰? という方は多いと思う。かくいう自分も名前だけで、よくは知らないのだが、70年代終わりから西海岸で活動しているニュー・ウェイヴ系シンガー・ソングライターという印象。80〜90年代にかけて数枚のソロ作を出し、A&Mから出た88年作は『失われた文明(Notes From The Lost Civilization)』の邦題で国内リリースされた。 その後ソングライターとして、シカゴやボニー・レイット、ヴァネッサ・ウィリアムス、ブライアン・マクナイト、アル・グリーンやアーロン・ネヴィルらに楽曲提供。元々は60年代中盤にバンド・デビューしているベテランで、70年代には かつてバディ・ホリーが率いたクリケッツのメンバーを務めていたらしい。

バカラックとは縁が深く、彼が05年のグラミーをさらった『AT THIS TIME』に参加。多くの曲を共作している。2人は90年代半ばから一緒に曲作りを行っていたらしく、ここにはおよそ08年頃までの共作曲がデモ音源で収録された。バカラックとドクター・ドレの共演で話題になった<Go Ask Shakespea>は、『AT THIS TIME』の完成版ではルーファス・ウェインライトがフィーチャーされていたが、このデモ版では何とバカラック自身が お馴染みのシワガレ声で歌っている。

シカゴ『26』に提供した<If I Should Lose You>、バカラックとロナルド・アイズレーの共演盤やディオンヌ・ワーウィック50周年作『NOW』に収録された<Love's Still The Answer>、ランディ・クロフォードが取り上げた<Tell It To Your Heart>を歌うのは、シンプリー・レッド<Money's Too Tight>のオリジネイター:ビリー・ヴァレンタイン(ex-ヴァレンタイン・ブラザーズ)。ダイアン・シューアで知られる<Never Take That Chance Again>をウォーレン・ウィービー、バカラック/ロニー・アイズレー共演盤からの<Count On Me>をビル・チャンプリンが歌っているのは、AORファンにとって美味しい部分。

対して<What Love can Do>は、06年にバカラックとブライアン・ウィルソンが共作した楽曲に、トニオ K.が詞を提供したもの。オリジナルはフィル・ラモーンのプロデュースで、日本でもリリースされたオムニバス『NEW MUSIC FROM AN OLD FRIEND』(08年)に収録。エリック・クラプトン、ウィリー・ネルソン、ピーボ・ブライソン、ケニー・ロギンズ、スティーヴン・ビショップにリチャード・マークスなどがセルフ・リメイクや新曲を持ち寄ったもので、実はその日本発売はカナザワがサジェストしたものだった。そのデモ楽曲にこんな所で巡り会うとは… ヴォーカルはバカラックのツアー・バンドにいたジョン・パガーノながら、ハーモニーがモロにビーチ・ボーイズ ポップス系ファンには、むしろコレが一番のプレゼントになるだろう。トニオ K.にとっても、とても感動的な時間だったようである。

もうひとつ彼にとって栄誉だったのは、バカラックとジェリー・リーバー(リーバー&ストーラー)に共作クレジットに自分の名を連ねられたこと。この曲はリーバーの健康問題などあって なかなか完成に至らず、2〜3年間寝かされたまま放置されていたらしい。そこでバカラックが、トニオを入れて3人でコンプリートさせようと提案し、この形になった。オリヴィア・ニュートン・ジョンを髣髴させるヴォーカルは、女優のブリトニー・バーティアー。バカラックとジェリー・リーバー、トニオ K.の3人が顔を合わせたのは、たった1回だそうである。

そんな美味しい作ながら、デモ集ということあって、今のところ日本発売予定はなく、以下のサイトで予約できるだけ(5月15日発売)。追って輸入盤が流通すると思うが、世界で限定1000枚というコトなので、すぐ無くなるのは目に見えている。興味のある人は早めの確保をおススメよ。

Contante & Sonante Order