kadomatsu_sea 2017
間もなく10日に発売される角松敏生のニュー・アルバム『SHE IS A LADY 2017』。皆さんより ひと足お先に楽しませて戴いてます。…とはいえ原稿締切追い込み中の身の上ゆえ、ジックリ対峙する時間は取れず、ながら聴きのサクッとした印象。もっとも87年のギター・インスト作『SHE IS A LADY』を、基本 同じアレンジでリメイクしたリ・レコーディング作なので、中身はたっぷり聴き馴染んだ曲ばかり。どこがどう変わったか、その解釈の違い、あるいはどれだけ演奏力・表現力が上向いたのか、まずはその辺りに耳がいく。

まず全体的な感覚として、オリジナル盤ではトゥ・マッチ感のあったリバーブ成分がリデュース、音圧も一緒に若干カットされたか、ナチュラル・メイクで耳に優しい感じになった。もともと作品的に音数が多い作りなので、この方が楽器ひとつひとつの表情が際立つ。アルバム屈指の好曲<52nd Street>のようなコンピュータ・チューンも、エッヂを程よく削ぎ落として耳馴染みが良くなった。

元々のオリジナル盤は、アマチュア時代はギタリストとして鳴らしていた角松が、「もっとギターを弾きたい」と勢いで作った体。対してこの2017年盤は、あれから30年の時間を経た角松が、「今ならもっと良いギターが弾ける」と思い立ったのがモチヴェーションのひとつになっている。だから些か強引なフレージングも飛び出してきたオリジナルに比べ、ずいぶんまろやかになった熟練の様相。もちろん、スキルよりもセンスで聴かせるギターであることに変わりはなく、アグレッシヴに引き倒す場面もあるが、今回はトーンの研究にも熱を入れただけあって、プレイの表情が更に豊富になった。エフェクターで色をつけるのではなく、ギターと指のタッチ、そしてフレージングで見せ場、聴かせ処を作った、というか。

中盤に差し込んだ隠れた人気曲<Ryoko!>は、3rdアルバム『ON THE CITY SHORE』のインタルードとして世に出たが、今回はもう少し長い拡大ヴァージョン。オリジナル音源を使用してのリメイクということで、インスト作を作るキッカケをくれた故・青木智仁へのトリビュートが込められているのだろう。続いての<Summer Babe>は、デビュー盤『SEA BREEZE』が原曲。これは当時自分のアレンジを大きく変えられてしまった曲だったそうで、昨年『SEA BREEZE 2017』を作って火が付いたか、ライヴで披露していた元ヴァージョンを形にしたいと。何だか NiteFlyte みたいになった気がするが、その方が角松らしいか…。うん、なかなか美味です

唯一の新曲<Evening Skyline>は、本人も認めるシャカタク・オマージュ。Vocalandで<Nightbirds>のカヴァーを演るほどシャカタク好きな角松だけれど、これはナイス あまりに流行りすぎて、一時は手垢まみれになってしまっていたシャカタク・サウンドながら、少し年月を置いてみた時にその普遍的魅力と新鮮さに気づき、彼らの紙ジャケ再発に協力したり、アルバム解説を仰せつかったりした。なのでコレは素直に嬉しい。やっぱりピアノ中心に女性コーラスなどを交えて構築した彼らのスタイルは、美メロ・フュージョンのひとつのフォーマットとして完成されているのよ。

そしてラストは、各ミュージシャンのスキルを思いっきり堪能できる<OSHI-TAO-SHITAI>。14分超の長尺、チカラ技で、聴き手を豪快に押し倒してくれます。この曲のテーマのモチーフは、実は学生時代から温めていたもの。

ちなみに角松は、今回のレコーディングに一部レスポールを使用。レコーディングでは借り物を弾いていたらしいが、いろいろ調査研究の末、ライヴに向けてヴィンテージ物を購入することに。その過程でカナザワの元にも調査依頼のメッセージがきた。曰く「ラリー・カールトンがレスポールを弾いてる写真を探してるんだけど…」 早速見つけてスキャン〜送信。結果的に1本購入の予定が2本になってしまったそうだ。アマチュア時代から角松を見ている者としては、レスポールを持つ角松の姿をうまく想像できないのだが、自分が少しは貢献できたなら嬉しい。しかも今週末からスタートするツアーではメインで使われるらしいので、それも楽しみだ。