ryo kawasaki
今月末から久しぶりの帰国公演を行なうジャズ・ギターのレジェンド:川崎燎(Ryo Kawasiki)。70年代前半にニューヨークに渡り、ギル・エヴァンスやエルヴィン・ジョーンズ、チコ・ハミルトンといった巨匠たちと共演して敏腕ギタリストぶりを発揮したかと思えば、ギター・シンセサイザーを開発したり、MIDIのマルチ・トラック・レコーディング・システムを独自に考案したり…。更にはMIDIシークエンサーを応用してニューヨークのハウス・ミュージック・シーンに切り込み、レーベルまで作ってしまったりと、完全にジャズ・ギタリストの枠からハミ出した活動を展開してきた。

ところが、北ヨーロッパのエストニアに拠点を定めた00年頃からジャズ・ギターへ回帰。近年は、70年代後半以来途絶えていたクロスオーヴァー/フュージョン、ジャズ・ファンク/ロック的な方向性に進んでいた。それを作品にまとめたのが、この『LEVEL 8』。そのタイトルは、川崎が日本でソロ活動を始めた時から数えて、今は8番目のステージにいる、というコトを示している。

カナザワの川崎燎に対するイメージというのは、アカデミックだけどよく分からない、というもの。振り幅が広い上に海外在住が長いため、活動状況が掴みづらいのが最大の原因だが、現在も海外のクラブ・ジャズ方面で絶大な人気がある79年作『MIRROR OF MY MIND』を出したあとは、突如ギター・シンセを駆使したワンマン・バンド作品へ移行してしまったから、捉えどころがなかった。

だがこの『LEVEL 8』は、最も人気のあった頃のクロスオーヴァ/フュージョン・スタイルに戻っている。収録曲のいくつかは0年代中盤の作『PRISM』や『JUICE』収録曲のリメイクだし、『MIRROR OF MY MIND』からはブラジリアン・スキャットの超絶人気曲<Trinkets And Things>を取り上げている。もちろん当時のままではなく、女性シンガーもスイッチしているけれど、孫? (娘?)のフルートを効果的に使ってメロディをクールに浮遊させる手腕は相変わらず。自分が求めていた川崎燎は、コレだよなぁと思わせるに充分だ。

曲調はバラエティに富むが、一貫して温故知新。ルックスは仙人みたいになってしまった川崎だが、その感性は他人よりも一歩先を行っている。聴けば心地良いがほとんど金太郎飴状態のスムーズ・ジャズとはは違い、シッカリと自分の音、スタイルがある。それがグルリとひと回りして、再びフレッシュに響き始めた、そんな感覚があるのだ。バンド・ミュージシャンはエストニアの若手らしいが、その実力の程は、30日からの日本公演で是非ご確認をば。川崎燎にはチョッと興味あるけど…、という方は、ちょうど良いチャンスになりそうです。


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