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昨日に引き続き、カナザワ監修Light Mellow和モノ・オリジナル・アルバム・リイシューから、小悪魔的な魅惑のシンガー・ソングライター:佐藤奈々子のコロムビア期の復刻ご紹介。今回は後続2枚、『Pillow Talk』と『Kissing Fish』が対象だ。

3作目『Pillow Talk』は、78年10月リリース。プロデュースは小坂忠。一見これは意外なチームアップに見えるが、実は奈々子はデビュー直後から小坂忠の事務所(社長は奥様の高叡華)に所属しており、デビュー作の時点で既に小坂からヴォーカル指導を受けていたそうで、言わばこれは“満を持して”のコラボだった。アレンジも小坂、ムーンライダーズの鈴木慶一らが手分けをして。ほとんどの曲に参加した佐藤博(2012年没)は、小坂〜ティン・パン・アレー人脈であり、ブローアップのレーベル・メイトでもあったため、スンナリ参加が決まった。<最後の手品>を収録した佐藤のソロ作『TIME』(77年)は、当時彼女のフェイヴァリットだったという。鈴木慶一<悲しきセクレタリー>、南佳孝<おいらギャングだぞ>、マリリン・モンローが映画『お熱いのがお好き』で歌った<愛してちょうだい>などのカヴァーは、「少し他の色も取り入れてみよう」というディレクターのアイディア。それによりウィスパー・ヴォイス表現に磨きが掛かり、ヴォーカルの表現力が増大。佐野も7曲を共作しながら、“奈々子の音楽的自我が目覚めてきた”と感じたらしい。

そして解説用の取材で、彼女自身の口から驚愕の事実が明かされた。
「このアルバムはライヴ録音したんですよ!」
慌ててクレジットを確認すると、確かに“厚生年金ホール”で3曲を録っている。これは、今はなき新宿厚生年金会館? ただし、いわゆるコンサートの実況録音ではなく、空のホールで一発録りした模様。おそらく空間的なナチュラル・エコーを利用したかったのだろう。今まで語られる機会がなかったので少々驚いた。こういうのは、本人やスタッフに取材してこそ。ボーナス曲は、某ラジカセのCMに使われた<ブラック・ペッパー・ジェラシー>のシングル・ヴァージョンと、拙監修『Light Mellow 佐藤奈々子』で発掘した未発表曲<細横丁奇譚>。これはレーベル・メイト:岩淵まことの曲で、本作セッションで録音されたものの、長年陽の目を見ずにいたものだった。

79年7月に発売された4thアルバム『Kissing Fish』は、初めて佐野以外のソングライターとのコラボレイトを開始した作品。佐野とのコラボは、前作『Pillow Talk』では11曲中7曲。そしてココでは2曲のみになった。代わりにペンを重ねたのは、前作にも関わった鈴木慶一、南佳孝、小坂忠の3人のほか、新たに加藤和彦と矢野顕子、そしてアレンジャー兼任の井上鑑という、これまた豪華布陣である。このうち井上は、まだ寺尾聰のブレイク前だが、既に売れっ子。ジャジーなテイストを程よく残しながらも、かなりアーバンなサウンドに仕上がったのは、偏に彼の手腕だろう。また加藤和彦は、後にSPYをプロデュースもらうなど縁深くなるが、本格的な仕事はこれが初めて。『パパ・ヘミングウェイ』のコーラスに呼ばれたのは、このすぐ直後だったそうだ。矢野顕子の提供した<パウダー・ゲーム>は異色作ながら、ライヴでは好んで歌ったという。

山木秀夫(ds)、高水健司(b)、長岡道夫(b/SHOGUN)、松木恒秀(g)、土方隆行(g)、土屋昌巳(g/一風堂)、武川雅寛(fiddle/ムーンライダーズ))、向井滋春(tb)、やまがたすみこ/大野方栄/鈴木慶一/伊集加代子(cho)と、録音メンバーも超豪華。しかし、ココで邂逅した加藤のヨーロッパ・センスに触発されたか、奈々子は本作を最後にブローアップ/コロムビアを離れ、岩倉健二(元ファースト・ブランド)、戸田吉則(元Hold Up)、永田裕らとニュー・ウェイヴ系ニュー・グループ:SPYを結成。音楽、写真と幅広く表現活動を展開していくことになる。