thelma houston
昨日のイベントで話のネタとして用意したテルマ・ヒューストンの未発表アルバム『SUMMER NIGHTS』(80年録音)が、来週9日、我が Light Mellow Searches(P-VINE)から奇跡的リリース。5曲入りミニ・アルバムの体裁ながら、ちょっとしたマニアならばほとんどの楽曲の出自を知ってそうな、まさにフル・アルバムに匹敵する内容の濃ゆさです

レコーディングはマッスル・ショールズのウィッシュボーン・スタジオ。プロデュースはそのオーナー・チームでもある、テリー・ウッドフォードとクレイトン・アイヴィ。AOR好きであれば、きっとロバート・バーンやバーン&バーンズあたりで、彼らの名をインプットしているだろう。ようやく日本盤リリースが見えてきたリード・ブラザーズの未発表2nd『BLACK SHAHEEN』(78年録音)や、今回の【AOR CITY 2017】で初CD化されるファンキー・コミュニケーション・コミッティー(通称F.C.C.)の2ndアルバム『DO YOU BELIEVE IN MAGIC?』(80年)も、同じチームのプロデュース作品。近々に発掘予定になっているミラージュというスタジオ・ユニットは、まさに彼らが中心となったプロジェクトだった。

元々アイヴィ&ウッドフォードは、“モータウンと契約した初の白人プロデュース・チーム”と言われる人たち。甘い歌声を持つ白人シンガー:ルーベン・ハウエル(04年没)を73年にモータウンからデビューさせ、ボズ・スキャッグスがジョニー・ブリストルを招いて制作した『SLOW DANCER』(74年)に先鞭をつけたと、高く評価する向きもある。他にテンプテーションズ、シュープリームス、コモドアーズ、G.C.キャメロン、ジェリー・バトラー、シャーリーンなど、モータウン所属の大物たちに次々関わり、その後も<Angel In Your Arms>を全米6位(77年)にした女性ヴォーカル・トリオ:ホット、元ステッペンウルフのジョン・ケイ、ソングライターとしても評価が高い元マザーロードの黒人kyd奏者ウィリアム・D・スミス、R&Bシンガーのミリー・ジャクソンやアン・セクストン、カントリーのハンク・ウィリアムス、そしてビックリ、かのロイ・オービソンの79年盤『LAMINAR LOW』などを手掛けてきた。

更に遡ると、テリー・ウッドフォードはマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオのスタッフだった人。72年に独立して制作会社ウィッシュボーン・インコーポレイテッドを設立し、そのパートナーとして、リック・ホールのフェイム・スタジオに出入りし、ミュージシャン集団:フェイム・ギャングにも名を連ねたキーボード奏者クレイトン・アイヴィと手を組んだ。ウィッシュボーン・スタジオは76年の建立になる。ロック・ファン、ソウル・ファンにとってのマッスル・ショールズはフェイムであり、マッスル・ショールズ・サウンドだろうけど、AORファンの耳に馴染むのは、このウィッシュボーン録音モノだ。

そんなアイヴィ&ウッドフォードがテルマと手を組んだのは、彼女がモータウンの傍系モーウエストから本家タムラへ移った最初のシングル<You've Been Doing Wrong For So Long>(74年)が初めて。その後もモータウンでのソロ作、あるいはジェリー・バトラーとの共演作などで断続的にプロデューサーとなった。そしてテルマとモータウンの関係が切れたタイミングで制作に乗り出したのが、本作だったようである。

そして問題の収録曲ラインアップ。まずタイトル曲<Summer Nights>と<Touch Me While I’m Dancing>は、いずれもBAMA(バマ)というマッスル・ショールズのセッション・グループの楽曲。彼らのワン&オンリー作『TOUCH ME WHEN WE’RE DANCING』(79年)に入っている。そのうちタイトル曲は、今回リイシューされるマリーン&SEAWINDのアルバム・タイトル曲でもあるのだ。BAMAヴァージョンも最近はDJネタになったりして、少しづつ知名度を上げているけれど、今回のイベントでご一緒した長門芳郎さんの話では、当時パイド・パイパー・ハウスでは輸入盤を結構売った、とのこと(日本未発)。なるほど、マリーンがカヴァーしたのは、パイド・パイパーが発信元だったかも。そして<Touch Me While I’m Dancing>は、大物カーペンターズでお馴染みのはず。 BAMAも全米86 位/アダルト・コンテンポラリー・チャート42位のスマッシュ・ヒットにしたが、カーペンターズ版は81年作『MADE IN AMERICA』に収められ、堂々全米16位/A.C.チャート首位に輝いている。その後もアラバマなどがカヴァーした有名曲。ちなみにタイトル及び歌詞がチョイと変更されている。

またAOR好きが真っ先に目を運ぶのが、ロバート・バーン作でキャプテン&テニールも歌っていた<No Love In The Morning>のカヴァーだろう。もちろんウィッシュボーン屈指の名盤であるロバート『BLAME IT ON THE NIGHT』(79年)にも収録。またソウル/R&Bファンも反応しそうなのが、ラストの<Regrets>で、これはジェイムス・ブラウンの80年作『PEOPLE』に収録されていた好バラード。シングルでもR&B 63位まで上昇していたし、AORファンはケニー・ランキン『AFTER THE ROSES』(80年) のヴァージョンでご存知かも。元々は74年にオズモンド・ファミリーの紅一点マリー・オズモンドに書かれ、他にも故アンディ・ウィリアムスやハワイのザ・クラッシュなどが取り上げている。

テルマは本作制作中にメジャーであるRCAと契約したようで、レコーディングは頓挫。録音済みのマスター・テープはそのままお蔵入りした。あぁ、もったいない。それでもこうして37年の時を経て陽の目を浴びたのだから、ヨシとしたい。できたら皆さんもお聴き逃しなきよう…。

またロバート・バーンの元相方、最近はブライアン・マクナイトのブレーンになっているブランドン・バーンズの初ソロ作も現在制作が進んでいて、どうやら秋頃に出できそうですよ。