matsubara_guitar brosage
引き続き【ビクター和フュージョン】シリーズ9月発売分から、カナザワ解説執筆分を。このシリーズでは、2000年に発足したaosisレーベル発の松原正樹のリーダー・アルバム5枚もすべて含まれていて、8月に『TENDER HEART』『ROAD MOVIE』『ALL-N-ALL』の3枚が再発済み。9月に、その後に続いた今剛とのデュオ作『THE GUITAR BROS.』(名義は松原正樹 with 今 剛 sitting' in)と、アコースティック・セルフ・カヴァー集『ACOUSTIC AGE』がリイシューされている。松っつぁんに関しては自主レーベル:Rocking Chairの方でも『HUMARYTHM BEST』が、そしてキャニオンからはパラシュートと松っつぁんソロのベストを抱き合わせた2枚組『プレミアム・ベスト』が出ており、没後1年半にして、チョッとした祭り状態といえる。

aosis4作目にあたる『THE GUITAR BROS.』は、元々シンガーを起用して制作を始めたもの。そこにギター誌から今とのデュオ企画が持ち込まれ、このアルバムに進化した。今との共演は10曲中8曲という高濃度。シンガーに起用されたのは、ブレッド&バター:岩澤幸矢の愛娘で新人Aisa。歌モノ4曲中3曲は彼女の作品で、残り1曲は松原/南部昌江夫妻の曲にAisaが詞をつけた。こうして巡ってきた流れを上手に手繰り寄せて活かしてしまうのが、いわば松原流である。

aosisではスムーズ・ジャズ系、『HUMARHYTHM』ではヒューマン・グルーヴを追求と、同時展開する両者の差別化を図っていた彼だが、本作には村上ポンタ秀一/島村英二(ds)、岡沢章/高水健司/松原秀樹/中村梅雀(b)、エルトン永田(kyd)、三沢またろう(perc)、そして南部(kyd)が参加と、特別な意図は見られず。つまり音楽性やスタイルで分けるより、それぞれ相応しい作品を作れば良いという心境に至ったようだ。だからアメリカン・ロック調もあれば、パラシュートのファンク的展開もありだし、2人のギターが異なるトーンで歌い上げるスロウ・ナンバーも楽しめる。松原と親しい歌舞伎俳優でフュージョン・マニアの中村梅雀が提供した<SOYOGI>は、桜吹雪をイメージした和テイストのでイマジネイティヴな楽曲。ベースの腕もプロ顔負けで、故ジャコ・パストリアス愛用のベースを所有していたりもする。

パラシュートの両雄による久々のスタジオ共演作なので、当時はアクレッシヴなギター・フュージョンを期待した方も多かったと思うが、やはりインスト以上に歌モノでプレゼンスを発揮する人たち。そのバランス感が存分に発揮された、最後のスタジオ共演作になった。

それに続いた『ACOUSTIC AGE』は、ギターとベースのデュオを基本とした、超シンプルなアコースティック・セルフ・カヴァー集。松っつぁんが使った電気楽器はエレクトリック・シタールだけである。発想の根源は、HUMARHYTHMシリーズでギンギンのハード・ロック系ギター・インストを作るプランがあり、ならばaosisでは正反対のアルバムを作って50歳記念に2枚同時発売しよう、というところにあった。

ところが選曲が定まらず、なんとそのお鉢がカナザワに。当時aosisでコンピを組んだり、解説を書いたりしていた流れで、ご指名を受けたのだ。今は閉じてしまった新川博さんのaosis studioに松っつぁん夫妻や関係者が集まってミーティングを持ったのが、昨日のことのように思い出される。選曲に当たって自分に課したテーマは、“リスナーの皆さんに松原正樹の何を伝えるか”。収録予定は10曲だったので、自分がまず15曲選び、そこからご本人に絞り込んいただいた。後日会った時に言われた言葉は、今も忘れられない。
「新しい気持ちで自分の古い曲に向かい合って、ようやく“あぁ、オレも捨てたモンじゃないな”って思えたよ。ほとんど初心者の頃の曲もあったのにね」

普段はギタリスト:松原正樹を聴く我々だが、ソングライター:松原正樹を浮き彫りにしたのが、この『ACOUTIC AGE』なのである。

改めて、Rest in Peace...