tomi malm
最近ではバート・バカラックがトニオ・Kと書いた極上デモ集やトム・スノウの未発表曲集などをリリースしている、スペイン発のコダワリAORレーベル:Contante & Sonante 。そこから登場した最新作が、このトミー・マルムのデビュー作だ。トミーはプロデュース/ソングライター/アレンジ/キーボード/ギター/ミックスなどをこなすマルチ・タレンテッドな逸材で、長年フィンランドの音楽シーンで活躍してきた。ちょっとしたAORマニアなら、09年に日本でも発売されたデヴィッド・フォスター・トリビュートのオムニバス『FLY AWAY』の仕切り役が彼だった、と思い出してくれるかもしれない。

その『FLY AWAY』を耳にされてれば、本盤の方向性自体はおおよそ掴めると思うが、最近で言えばCWL(チャンプリン=ウィリアムス=フリーステッド)あたりに近い、ソツなくまとった欧州産AORアルバムというのが立ち位置。全12曲中10曲がトミーと誰かの共作で、おそらくはファイルのやり取りなのだろう、その筋ではかなり知られた米国人シンガーやマニア受けするヴォーカリスト、ミュージシャンたちが多数参加している。

ざっと書き並べると、シンガーにジェイソン・シェフ、ウォーレン・ウィービー、クリフ・マグネス、ジェフ・ペセットほか。バックはヨーロッパのセッション・ミュージシャンをベースに、要所要所でロビー・ブキャナン(kyd)、ジェームス・ハラー/ダン・ワーナー(g)、ニール・ステューベンハウス/アレックス・アル(b)、ジョン・ロビンソン/サイモン・フィリップス/ヴィニー・カリウタ(ds)、ルイス・コンテ(perc)、エリック・マリエンサル/ブランドン・フィールズ(sax)らをキャスティングしている。

パット・メセニー風のプロローグ・インストに続いて耳を捉えるのは、スウェーデンの人気シンガー:フランク・オダルが歌うパワー・チューン<Favor>。圧の強いヴォーカルと疾走する5管のホーンがイイ感じで、その後ろからサイモン・フィリップスがドカドカと煽る。

タイトル曲<Walkin' On AIr>は、ジェイソン・シェフがヴォーカル&ベースで参加。1年前の電撃的シカゴ脱退以後ほとんど音沙汰がなく、気を揉んでいたファンも少なくないと思うが、元気そうな歌声が聴けて何より。ドラムがヴィニーということで、後半はジノ・ヴァネリ『NIGHTWALKER』を思わせるド派手な展開になっていく。実はコレ、不肖カナザワの本作イチ押しトラック。

Contante & Sonanteの強いこだわりのひとつに、98年に亡くなったデヴィッド・フォスター子飼いの名シンガー:ウォーレン・ウィービーが歌う曲があるが、今回はアコースティック・ギタリスト:ハンク・イーストンの自主アルバム(07年)で歌っていた<Show Me A Sign>をピックアップ。そこからウォーレンのヴォーカルを抽出し、オケを作り変えて、ZoSiaという女性シンガーとのデュエットに仕立て直した。

N.ステューベンハウスとJ.ロビンソン、R.ブキャナンという米国勢を従えてジェフ・ペセットが歌う<Perfect Imperfection>は、思わずフォスターの『RIVER OF LOVE』を髣髴させる。つまり、甘〜い雰囲気重視ではなく、ちゃんと音楽的仕掛けもあるハーフ・ビターなバラード。そしてインタルードを挟んで登場する<Wouldn't It Be Kindler>は、オーレ・ブールドのバンドのリズム隊をそのまま起用したミディアム・スロウで、ヴォーカルは現在TOTOでベースを弾いているシェム。彼は少し前までアンブロージアでデヴィッド・パックの役割を果たしていたが、この曲のヴォーカルもちょっぴりソレっぽくてニヤリ。

ファンキー・ポップな<Let's Get To It>は、アレ!? ビル・チャンプリン?と思ったら、ソロ・アルバムもあるジェリー・ロペスをフィーチャー。そして<You Belong To Me>では、お久しぶりのクリフ・マグネスが大らかなスロウ・ナンバーを歌っている。

今のところ日本発売の予定はなく、流通経路もちょっと限られそうなので、以下から早めのチェックを。

Contante & Sonante Website(プロモ映像あり)
ディスクユニオン