carla bruni
運転中にFMから流れてきたローリング・ストーンズ<Miss You>のカヴァーに、思わず耳を奪われた。何というか、アレンジがユニークだし、歌声も艶やか。「誰だ、コレは」その答えは、何とカーラ・ブルーニ。元スーパー・モデルで現在はシンガー。そして2012年まではフランスのサルコジ元大統領夫人、つまりファースト・レディーとしてお茶の間に名前が浸透した女性である。

「これは」と思ってすぐにCDをゲットし、また驚いた。何とコレ、デヴィッド・フォスターの最新プロデュース・ワークじゃないの しかも、基本的にすべての楽曲のプロデュース/アレンジを手掛けていて。2〜3曲だけを自分でやって、あとは手下や他のプロデューサーに投げる、というよくありがちな手法を、ココでは採っていないのだ。これがフォスター流 “元ファースト・レディ” のおもてなし、かな? もっともヨーカム・ヴァン・ダー・サーグとシルヴィアン・テイレットというコ・プロデュース陣はいるのだが…。レコーディングもフランスとL.A.双方で行われ、米国側にはディーン・パークス(g)、ジム・ケルトナー(ds)らが参加している。

でもこのアルバム最大の魅力は、セレブなイメージのカーラと、それを軸にした見事なカヴァー楽曲の選曲の妙だろう。映画主題歌のスタンダード<Moon River>、<Love Letters>や<Please Don't Kiss Me>あたりは、至極当然のチョイス。ABBAの<The Winner>、ブルース・ブラザーズで知られる<Stand By Your Man>、日本盤ボーナス曲でエヴァリー・ブラザーズの<Love Hurts>あたりも、まぁ、納得できる。パッティー・クラインで有名な<Crazy>は、作者のウィリー・ネルソン自身がゲスト参加し、カーラと一緒に歌っている。でも前述のストーンズ<Miss You>なんてのはまだ序の口で、<Enjoy The Silence>(ディペッシュ・モード)、<Jiimy Jazz>(ザ・クラッシュ)、<Perfect Day>(ルー・リード)、そして終いにゃ<Highway To Hell>(AC/DC)まで。しかも彼女は「こんなハード・ロック・クラシックを、オリジナルとは全く変わり、ジャズっぽくカヴァーすることができて、とも楽しいひと時だったわ」と宣う。<Perfect Day>に対しても、「この曲はまさにパーフェクト! それに対して私に何ができるの?」と問い返し、「オリジナルよりも軽いヴァージョンを想像して反対の方向へ進み、パリの石畳の道を歩くワルツのようにしてみたの」と語っているのだ。

ストーンズはともかく、デヴィッド・フォスターがクラッシュやAC/DCを聴きながらアレンジをヒネっている図は思い浮かばない。けれど生まれながらのブルジョワジーとはいえ、今年ジャスト50歳の彼女には自然に親しんだ楽曲なのだろう。元々フォークやブルースのようなシンプルな音楽が好きというから、その嗜好が今作のベースにある。そして持ち前の、ややハスキーなロウ・ヴォイスが、それをヴィヴィッドに伝えるのだ。フォーキーな仕上がりのABBA<The Winner>は、まさにこのアルバムを作るキッカケになったとか。この曲のみカーラがギターを弾いているのも、デモを聴いたフォスターの提案によるものだったと言う。海外では配信で先行リリースされたデペッシュ・モードのカヴァーが話題だそうで、当然それに反応する日本のファンも多いだろう。

近年はクラシカル・クロスオーヴァーのイメージが強くなっているフォスターだけど、個人的にはブライアン・アダムスやシールのカヴァー曲集にベテラン・プロデューサーの気骨を感じていた。カーラ・ブルーニのコレも、そんな流れに乗っている。少ない音数にシットリ配されるストリングスの豊潤な響きは、フォスターのセンスが今も鈍っていないことを物語っているな。