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引き続き、11月8日と本日29日に50タイトルづつ復刻される【ソニー・クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000】のラインアップから、カナザワのライナー執筆ネタを。今回は名ドラマー:ハーヴィー・メイソンのソロ3枚。去年の同シリーズでも『 EARTH MOVER』と『FUNK IN A MASON JAR』を書かせてもらってるので、今回はその前後作になる。

『MARCHING IN THE STREET』は、ハーヴィーが75年にアリスタから発表した初リーダー作。当時のアリスタはGRPレーベルをディストリビュートしたり、ブレッカー・ブラザーズ、ジェフ・ローバー、マイク・マイニエリ、ノーマン・コナーズと契約するなど、新興勢力であるジャズ・フュージョンにも注力していた。そんな中、ハービー・ハンコックのジャズ・ファンク名盤『HEADHUNTERS』(73年)で知名度がアップしたハーヴィーと契約。当時28歳の彼は、バークレー音楽院やニューイングランド音楽院で作編曲・楽理を学び、トータル・ミュージシャンとして実力をアピールするチャンスを窺っていた。

故にプロデュース&アレンジはハーヴィー自身。バックにはハンコックを筆頭とするヘッドハンターズ組と、後にジェントル・ソウツへ発展するリー・リトナー/デイヴ・グルーシン中心のチーム。ホーン隊はアーニー・ワッツ、オスカー・ブラッシャー、ジョージ・ボハノンら、A&Mにアルバムがあるカーマの面々。コーラスにはデビュー準備中のランディ・クロフォードも参加した。収録曲には、マーサ&ザ・ヴァンデラス<Dancing In The Street>をモチーフにしたと思しきハーヴィー作のファンキー・チューン<Marching In The Street>、グルーシン提供の<Modaji>、ヘッドハンターズ人脈によるジャズ・ファンク<Hop Scotch>、リトナー作ながらヘッドハンターズ一門と相見える<Wild Rice>、グルーシンとハンコックがエレキ/生でピアノ共演するジャズ・バラード<Ballad Of Heather>など、聴き処がたくさんある。そして作編曲やプロデュースにも長けたところを見せたハーヴィーは、クインシー・ジョーンズ『MELLOW MADNESS』やらブレッカー・ブラザーズ1st、トミー・リピューマが手掛けたジョージ・ベンソン『BREEZIN’』など、ジャズ・フュージョンの歴史的傑作に次々起用されていった。

『GROOVIIN’ YOU』は、79年発表のソロ4枚目。上記『MARCHING IN THE STREET』や2nd『EARTH MOVER』は、いわゆるクロスオーヴァー/フュージョンの作品だったが、3rdに当たる『FUNK IN A MASON JAR』ではアース・ウインド&ファイアー(以下EW&F)周辺、スティーヴィー・ワンダー人脈、TOTOファミリーなどを効果的にキャストし、アーバン・ポップ&ファンク路線にシフト。コレもその延長にある。デヴィッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、スティーヴ・ルカサー、マイク・ポーカロらが参加し、そこにEW&Fのヴァーダイン・ホワイト、同じくEW&Fの外部ブレーン:ビル・メイヤーズが絡んだり。<Here Today, Gone Tomorrow>のリード・ヴォーカルはビル・チャンプリンで、スタンリー・クラークとトニー・デュマスのベース対決まで楽しめる。でもピカイチなのは、マイケル・ジャクソン『THRILLER』に参加してソロ作もある女性セッション・シンガー/作詞家バニー・ハルと、弦アレンジの達人でヴァイオリン奏者/シンガーのチャールズ・ヴィールが共作/デュエットした<We Can>だ。フォスターやジェリー・ヘイもアレンジに連なる曲だけれど、これが<After The Love Is Gone>にも匹敵する、隠れた超ド級の名バラードなのよ

そして81年作『M.V.P.』は、前作から更にダンス・ポップ色を推進し、逆にフュージョン色を排した作品。リズム・アレンジにクインシー・ジョーンズの影響が濃厚で、マイケル・ジャクソン『OFF THE WALL』やジョージ・ベンソン『GIVE ME THE NIGHT』、ブラザーズ・ジョンソン『LIGHT UP THE NIGHT』、ルーファス&チャカ・カーン『MASTERJAM』辺りを聴きまくり、そのリズム・メソッドを研究しまくったと思われる。参加メンバーも大きく変わり、連続参加はリトナーやアレンジのジェリー・ピータースくらい。ソニー・バークやパトリース・ラッシェン、トム・キーンら馴染みの名もあるが、キー・パーソンは、わざわざ “introducing”と記されたベース/ヴォーカルのデオン・エスタスだ。デオンは “ワム!の3人目のメンバー”という評価もあった人で、エルトン・ジョンやミーシャ・パリス、ファイヴ・スター、キム・ワイルドら英国勢の作品に多く参加。でも元々はデトロイト生まれで、タブー・レーベルの大型ファンク・バンド:ブレインストームのメンバーだった。彼が歌った<We Can Start Tonight>は、メイソンのシングル最高位のR&B55位をマークし、書き下ろしのメロウ・ミディアム<Spell>は、88年の初ソロ作でセルフ・リメイクする好曲。だがハーヴィーのアルバム自体のセールスは振るわず、アリスタとはそのまま契約切れを迎えている。結局、次作『STONE MASON』(82年/未CD化)は日本のみの発売で、音もフュージョン寄りに。その後ハーヴィーはフォープレイに参加し、十数年間ソロ作に向かうことはなかった。

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