rie aono (1)

ヴィヴィド発 Light Mellow's Choice シリーズ最新作。発売が10月中旬だったので、スッカリご紹介が遅くなりました。実はなかなか豊富なキャリアを持つシンガー:青野りえの、遅かりしソロ・デビュー作。スッーっと頬を撫でるようなさり気なさで、ジワジワ評判を広げています。

   どこか郷愁を誘う歌で、忘れていた情景をたくさん思い出す。
     心に、こんなになつかしいことがたくさん眠っていたなんて。
      大人になって良かったと思う。  土岐麻子


先ごろ亡くなった亀渕友香のゴスペル・グループ The Voices Of Japan 出身。和田アキ子のバックで紅白歌合戦に出場し、世界的アコーディオン奏者 cobaの『テクノキャバレー』で木の実ナナや中村有志、戸川純らと共演したこともある。シティ・ポップ・デュオ aoyama、沖井礼二(ex.Cymbals/TWEEDEES )のソロ・プロジェクト: FROGのゲスト参加などを経て、現在は自ら“青野りえ & hums ”でアメリカン・ロック系のバンド・サウンドを提示。著名アーティストのバック・ヴォーカルや CMソングなど、多くのセッション・ワークもこなしている。そんな中での初めてのソロ・アルバムだ。

でもこうしたキャリアに反して、彼女の声そのものには強い主張などなく、涼やかな風のようにサラリと耳に馴染んでくる。それを惹き立てるべく重責を担ったのが、作曲・プロデュースの関美彦。彼自身もサニーデイ・サーヴィス:曽我部恵一のプロデュースで好作を残すシンガー・ソングライターだ。そして関が信頼を置く付き合いの長い仲間たち、 伊賀航(b)、北山ゆう子(ds)、山之内俊夫(g)がバックを務める。彼らの名は昨今の細野晴臣から流線形に至るまでアチコチにクレジットされているから、きっと何処かでお目に掛かっているだろう。

更にそこへ新風を吹き込んでいるのが、我らがブルー・ペパーズの井上薫。彼が関に代わって鍵盤を鳴らすのは3曲だけなのだが、実はコレをヴィヴィド/Light Mellow's Choiceの看板で出すにあたって、ほぼ完成していたミニ・アルバムをフル・サイズに拡張することになり、井上の起用が決まった。その3曲のうち<晴海通り>は、唯一、井上が提供した楽曲(詞は青野)。コレをブルー・ペパーズで演るとなれなりにヒネリが入るところだが、そこはさすがに関のコントロールが効いて程よい塩梅に仕上がっている。その分ギターがエリック・ゲイル風の濃さで、ラストに向けてスタッフ風に熱く展開していくけど… りえ嬢のヴォーカルの表情も、若い男を迎えて心なしか朗らか。そういやアルバム冒頭でいきなりTighten Upしたイントロをカマすタイトル曲<Pastral>も、間奏で突然スティーリー・ダンが顔を出す。コレも井上参加を意識した、関氏のお遊びですかね?

Suchmos効果か、やたらシティ・ポップス風の若いバンドが登場している昨今だけど、少し前までシーンで幅を利かせていたヴィジュアル系やガレージ・バンドがアシッド・ジャズ風に移行しただけなら、そこに大した意味はない。ブームもきっとすぐに去るだろう。でもその機に乗じて、したたかに本物の音楽を繰り出してくる者たちが必ずいるし、それを心待ちにしている音楽ファンもいる。そして真の音楽を知っているポスト・キリンジ世代の若手も増えてきた。青野りえのように、ピュアーでまっすぐな歌声で勝負する正統派シンガーにとっては、少しづつ好ましい状況になってきているではないかな?

ゴスペル出身とはいえ押しは強くないので、ガンガン聴き込んで対峙するタイプじゃないけれど、ほっとしたい時に黙って寄り添ってくれるような、いつもそばに置いておきたいアルバムです。