left lane

来る3月28日、拙監修【Light Mellow Searches】@P-VINEから、レフト・レーンのワン&オンリー作『IN COMMON』が紙ジャケ仕様でリイシューされる。でも大抵の方は、「それって誰」だろう。それぐらい無名のバンドで、まさに知る人ぞ知る存在。では何故そんなアルバムをリイシューするのか? それはもうひたすら純粋に、これほどインテリジェンスを感じさせるAORバンドはいないから、である。DJ諸兄によるレア盤発掘は享楽的意味が支配的だが、レフト・レーンのCD化は音楽的価値が極めて高い。他に類を見ない、と言い切れるほど、個性的かつ先駆的なのだ。オリジナル・リリースは85年。米国はミズーリ州セントルイスで結成されたのに、遠く北欧スウェーデンでしかレコードが出せなかったのも、当時は彼らの音楽性を認める土壌がそこにしかなかったから、である。

レフト・レーンの音を一言で表現するなら、コンテンポラリー・ジャズ仕様のAOR、とでも言うか。バンドの中心人物にしてメイン・ライター/ギタリスト兼シンガーのピーター・メイヤーは、アルバムの音楽的コンセプトをこう語る。

「僕たちはパット・メセニーやキース・ジャレット、ラルフ・タウナー、ビル・コナーズら、ECMのアーティストから強い影響を受けている。だからその足跡を辿りたいと考えたんだ。でも我々はそこにヴォーカルを加えた。私たちの音楽では歌詞も重要だったからね」

とりわけECMの自然なサウンド、空間とハーモニーに対するオープンなセンスは、彼らに大きな刺激を与えた。かくして深遠な透明感溢れるジャジーなサウンドに、若々しいヴォーカルが乗るレフト・レーン・スタイルが完成。でもそのスタンスは、どこまでもエクスペリメンタル。Mid 80'sというコトもあってか、ポリスや90125期のイエス、Mr.ミスターあたりに通じる音作りも垣間見える。

レフト・レーンのメンバーは、ピーター・メイヤー以下、弟のジム・メイヤー(b)、ロジャー・グース(ds)、そしてグループ結成前からジャズ・ピアノ奏者としてキャリアを築いていたレイ・ケネディ(もちろん同名異人)の4人。そして本作でコ・プロデュース/エンジニアとして貢献しているのが、メンバーとは同郷のジェイ・オリヴァーである。オリヴァーといえば、かのジェイ・グレイドン『AIRPLAY FOR THE PLANET』(93年)に参加し、日本公演にも参加したkyd奏者/プログラマー。同じく同郷のデイヴ・ウェックル(ds)と親しく、GRPから出ているウェックルの初期ソロ作に全面協力している他、80年代末結成のデイヴ・ウェックル・バンドでは、バジー・フェイトンと共に正式メンバーとなった。その流れでチック・コリア・エレクトリック・バンド周辺でも仕事をこなし、グレン・フライのソロ・サポートから再編イーグルス、ジャーニーに参加したスティーヴ・スミス(ds)のヴァイタル・インフォメーション、ピーボ・ブライソン、セリーヌ・ディオンらのサポート経験もある。実を言えば、ウェックルの初アルバム『MASTER PLAN』(90年)では、このレフト・レーンのアルバムから2曲が取り上げられていた。そういう点からも、まったく無名である彼らへの評価の高さが窺い知れる。またウェックル・バンドのベース:トム・ケネディは、前述したレイ・ケネディの弟。リー・リトナーやマイク・スターン、ステップス・アヘッドなどでもプレイしている人だから、フュージョン好きはきっとご記憶だろう。

こうした音楽的成果を上げたレフト・レーンが、どうして短命に終わったか。その理由はCDのライナーをご参照いただくとして、もうひとつ重要なポイントを挙げておきたい。それは、88年にアダルト・コンテンポラリー・チャートで<Piece Of Paradise>をヒットさせた3人組PM。実はこのPMこそ、レフト・レーンの生まれ変わり、なのだ。しかもそのPMのデビュー・アルバムをプロデュースしたのが、スティーリー・ダンのエンジニアとして有名なエリオット・シャイナー。もうそれだけで、かなりのクセとキレが同居する音だと理解できよう。しかしPMはレーベル縮小のリストラに遭遇し、アルバム1枚でメジャー落ち。そこに救いの手を差し伸べたのもシャイナーで、PMの3人は彼の仲介により、ジミー・バフェットのバック・バンド:コーラル・リーファー・バンドに参加することになった。

ジミー・バフェットというと、日本ではほとんど知られていないが、米国では国民的な大スター。トロピカル・テイストのポップ・カントリー系シンガー・ソングライターとして活躍する傍ら、ベストセラー作家、全米規模のレストラン・チェーン2つをマネージするオーナーでもある。3人はそのコーラル・リーファー・バンドで約30年、バフェットのサポートを続けているのだ。このバンドには、彼ら以外にもAORファンならご存知であろうマック・マクナリーが在籍。過去メンバーには、ジョン・ハイアットやジェリー・ジェフ・ウォーカー、ラス・カンケル、リトル・フィートのサム・クレイトン、それにAOR系のランディ・グッドラムやラリー・リー、ハドリー・ホッケンスミスまで、よく知る名前がズラリと並ぶ。ピーターはちょうど、ジェイムス・テイラー・バンドに於けるマイケル・ランドウのような立ち位置に居るのだろう。そして今もバフェットのバックと併行して、弟ジムやロジャー・グースとピーター・メイヤー・グループとしてリリースを続けている。ソロ作や別働ユニットを含めると、その数ざっと十数枚。彼の確かなギター・テクニックは、ヴァーチュオーゾと呼ばれるほどだ。その原点が、このレフト・レーンにあった。

一聴しただけでは、確かに取っ付きにくい音かもしれない。でもそれは、パット・メセニーやECMの作品群も同じこと。ジックリと腰を据えて聴き込んで欲しい、真に音楽的なアルバムである。ハッキリ言って、これほどインテリジェンスに溢れ、なおかつエクスペリメンタルな AOR バンド、カナザワは 他に知りません。スウェーデンのみのリリースだったというのも、スティーリー・ダンよりペイジスをこよなく愛すAORファンが多いからこそ、でしょ。