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  恋したこと、忘れちゃいないさ…

スティーヴン・スティルスとジュディ・コリンズ。50年前に愛を育んだ元・恋人同士が、再会と特別な友情を祝して作り上げた初めてのデュオ・アルバム。そのニュースを知った時は、正直 期待ではなく、“今更 何を歌うんだろう?” と懐疑心の方が強く働き、ノスタルジー・ムードたっぷりの作風を懸念した。実際アルバムでは、2人にまつわる往年の名曲が、あれやこれやとたくさん取り上げられていて…。ところが実際に聴いてみると、特段 目新しいコトは演ってないのに、すごく瑞々しい仕上がりでビックリ 共に70歳代という、言ってしまえば「爺さん・婆さん」のアルバムなのに、10代の少年少女が瞳をキラキラさせているような、それでいてシットリ落ち着きのある、そんな清々しいアルバムになっているのだ。

ジュディ・コリンズといえば、ジョーン・バエズと共に60年代のフォーク・シーンを彩った女性シンガー。レナード・コーエンをデビューに導いたのも、ジョニ・ミッチェルの名を世に広めたのも彼女だ。そのジュディの67年作『WHO KNOWS WHERE THE TIME GOES(時の流れを誰が知る)』に参加し、大車輪の活躍を見せたのが、バッファロー・スプリングフィールドのスティヴン・スティルス。すぐに恋に落ちた2人だったが、その付き合いはわすか1年ほどと短かったらしい。それでも、スティルスがバッファロー・スプリングフィールド解散〜クロスビー・スティルス&ナッシュ結成へと向かう人生の転機に、2人は一緒にいた。そしてその関係が終わった時に生まれたのが、CSNの名曲<Suite: Judy Blue Eyes(青い眼のジュディ)>なのは有名な話。きっとその当時の思いの丈が、ココにリ・レコーディングされたジュディの67年作のタイトル曲<時の流れを誰が知る>(原曲はフェアポート・コンヴェンション/サンディ・デニー作)に籠っているのだと思う。

そのほか収録曲のうち、ジュディの<House(幸せの家)>は、75年作『JUDITH』からの再演。元々この曲は、スティルスとの恋の終わりを綴ったものらしい。一方スティルスも、その名もズバリ<Judy>なる曲を歌っている。こちらは68年に書かれ、デモ・テープまで作られたが、それが行方不明になって、07年発表の『JUST ROLL TAPE:April 26th,1968』まで陽の目を見ずにいた作品。今回のシンプルなアレンジは、それに準じる形だそうだ。その同じロスト・テープに入っていたのが<So Begins The Task>。一般的にはマナサスのヴァージョンで知られるが、その初録音はもっと早かった。ちなみにジュディもこの曲を歌っていたりして…。またアルバム・ラストの<Questions>は、バッファロー・スプリングフィールド時代の楽曲で、CSN&Y『DEJA VU』でも歌われていた。

前述<時の流れを誰が知る>の他にも、ハート・ウォームなカヴァー曲がふんだん。聴き始めていきなり笑みを誘う<Handle With Care>は、ボブ・ディランとジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、ジェフ.リン、トム・ペティらが組んだ覆面バンド:トラヴェリング・ウィルベリーズのヒット曲(88年/全米45位)。そのディランの人気曲<Girl From The North Country(北国の少女)>、ティム・ハーディン<Reason To Live>と、フォーク・ロックの新潮流を生んだ同胞たちの楽曲を積極的に取り上げているのも嬉しい。本作タイトル曲<Everybody Knows>にしても、レナード・コーエンの80年代の楽曲であるし。

そして今回の唯一の新曲が、ジュディが書き下ろした<River Of Gold>。“時は移ろい、何もかもが変わってしまったけれど、あの頃にあった何か、売ったり買ったりできないキラメキは忘れない…” そんなことが歌われている。7月から一緒にツアーに出る2人だが、“焼け棒杭に火がつくか…?” なんて下衆な勘繰りをするんじゃなく、2人がステキな歳の重ね方をしてきたことに祝杯を上げたい。

歳を喰っても手を繋いで街を歩けるような夫婦ってイイよな…