yukari ito_misty hour

雪村いずみがキャラメル・ママを従えた『スーパー・ジェネレーション』(74年)、いしだあゆみ&ティン・パン・アレー・ファミリー『アワー・コネクション』(77年)の系譜に連なる80年代の隠れ名盤が、いよいよ初CD化される。60〜70年代に一世を風靡した大ベテラン・シンガー:伊東ゆかりが、82年に発表した『MISTY HOUR』だ。竹内まりやの<September>、松原みきの<真夜中のドア〜Stay With Me>、上田正樹<悲しい色やね>、杏里<悲しみが止まらない>や杉山清貴&オメガトライブの一連のヒットを飛ばして勢いに乗っていたヒット・メイカー:林哲司が、作編曲家からプロデューサーへのステップアップを目指してファミリー総動員で制作した、この時期だからこそ作り得たヒドゥン・トレジャー、まさに隠れた至宝たる一枚である。

伊東ゆかりといえば、67年に爆発的ヒットを記録した<小指のおもいで>が有名。同時期に活躍した中尾ミエや園まりと共に、“(スパーク)3人娘” としてお茶の間を沸かせた。77年から81年はTBSの音楽番組『サウンド・イン・S』でメイン司会を務め、前田憲男率いるビッグ・バンドを従えてスタンダードを歌ったりゲストとデュエットし、ポップス/洋楽方面にファン層を大きく広げた。それを受けてのアルバムがコレ。彼女に対して “歌謡曲の大御所歌手” というイメージしか持っていないとチョッと面食らうかもしれないが、78年にビクター/インヴィテーションへ移籍してからのゆかりサンは、リタ・クーリッジやメリサ・マンチェスターでお馴染み<あなたしか見えない(Don’t Cry Out Loud)>を鈴木茂アレンジで歌っていたし、意外なところでは、何とエマーソン・レイク&パーマーのグレッグ・レイク作<Cest La Vie>を日本語カヴァーしてたりする。

林の狙いはズバリ、ディオンヌ・ワーウィックのAOR名盤『FOR YOU』。ディオンヌがジェイ・グレイドンにプロデュースを委ね、デヴィッド・フォスターやトム・スノウの曲を歌った名品だ。キャリア充分のベテランを、若手シンガー・ソングライターやサウンド・クリエイターたちが集まってサポートする、そういう構図を演出したかったという。そこが雪村いずみ、いしだあゆみの作品に連なるとした理由だ。


林が集めた若き才能たちは、竹内まりや、EPO、かまやつひろしといったソングライターたちと、ヤマハ時代からの友人である佐藤健に井上鑑。林自身の書き下ろしはわずか3曲と控えめで、みんなから書き下ろし曲を受け取った後、そこにないタイプの楽曲、こういう曲が欲しいと思ったものを書き足したそうだ。作曲家として上昇機運に乗っていた最中だから、普通は全曲自分で曲を書いて…、というのが常套手段。でも敢えてそれをせず、プロデューサーというステージにチャレンジした。年末近くの発売で、ディナー・ショーなどスケジュールが手一杯だったゆかりサンに代わり、林自身がプロモーションに動いたというのも、彼の考えるプロデューサー像に則ってのことだった。

収録曲中、ライトメロウ的トップ・リコメンドは、拙監修・選曲のコンピ『Light Mellow AVENUE』(14年)にピックアップした佐藤健の名曲<マリコ>。また井上鑑が書いた<こんな優しい雨の日は>は、同じく『Light Mellow SIGNAL』(15年)と、DJ MUROが最新出した『Diggin’ Victor Deep into the vaults of Japanese Fusion』(18年)にチョイスされている。一方で林は、EPOが提供して安部恭弘と一緒にハモッている<告白>が印象に残っているとか。「例えば、まりやさんの<September>もEPOさんのコーラスだけど、キャッチーなメロディを、よりポップに引き立てるスキャットなの。ヴォイシング云々ではなく、文字を当て込むアイディアがスゴイ。バーシアの先を行ってたね」

もちろん まりやの書き下ろし<恋人たち>もゆったりした好曲で、まりや自身とEPOがコーラスを取る。でもそれが当時は、まったく話題にならなかった。今なら “竹内まりや書き下ろし” という冠だけでニュースになるが、まりやもまだヒットを出し始めた頃だったし、EPOはまだ新人。井上鑑も寺尾聰のブレイクから日が浅い。でも林から見たら、「この作曲陣の顔ぶれが集められた時点で、アルバムは半分完成したようなもの」で、みんながそれぞれ “らしさ”を発揮してくれたという。

演奏陣は、林の3rdソロ『SUMMER WINE』(80年)に参加したパラシュートの面々(井上鑑、松原正樹、今剛、林立夫、斎藤ノブ)に、村上ポンタ秀一(ds)、松下誠(g)、高水健司/岡沢章(b)、難波弘之(kyd)、スペクトラムの奥慶一(kyd)、浜口茂外也(perc)、土岐英史(sax)など。コーラスにはまりや、EPO、安部恭弘の他にも、小山水城、翌年林のプロデュースでデビューする国分友里恵らが参加した。アレンジには林自身と井上鑑に加え、松原正樹の名もある。

“当時は何も起きなかったが、今は音楽フリークたちが待ってくれてるのが実感できる” という林。以前から「出す出す」と言っておきながら、みなさんをずいぶんお待たせしてしまったのはカナザワの不徳の致すところながら、当初目論んでいたインヴィテーション期のゆかりサン作品全復刻は、権利上の制約で結局叶わなかった。それでも昨今注目されるJ-AOR / 80's シティポップ的重要作を押さえられたので、まずはお許しを。キティの間宮貴子がアレほど騒がれるなら、当然コチラも…、というのが、今の自分の本音である。

来る4月25日、拙監修 Light Mellow's Choice / VIVID Sound より。