leroy hutson
   『ANTHOLOGY 1972-1984』

ジワジワと初来日公演への期待が高まり、3日のBillboard Live Tokyo 初日も大好評だったリロイ・ハトソンの2日目 1st Show を観戦。偶然にも隣のシートは、昨日一緒だったクニモンド瀧口氏とナツ・サマーちゃん。オーディンスにやたらと知り合いが多かったのも、それだけ注目度が高い証しだろう。この手のニューソウル系シンガーは、スティーヴィー・ワンダーを除くと、ほとんどが鬼籍に入ってしまったか、リタイアしている。ホントは近々に新作を出すラモント・ドジャーも来日話があったそうだが、体調を崩して全米ツアーをキャンセルしたので、来日も当面無理のようだ。
バックは kyd x2, perc, sax, cho x2 を含む白黒混成総勢9人から成る大所帯バンド。ドラムのニック・ヴァン・ゲルダーは初期ジェミロクワイのメンバー。どうも演奏陣はUK人脈らしく、そういえば5〜6年前に亡くなったテリー・キャリアも、復活後のライヴは英国勢だったなぁーと思い出した。コーラスの片割れの女性シンガーは、先ごろ久々にソロ・アルバムを出したジゼル・スミス嬢。

とにかくリロイは、72歳にして初来日。しかも82年の『PARADISE』以降、出るのは編集盤ばかりで、ほとんど音沙汰がなかった。最近はUKでライヴを行っているそうだが、それまでのブランクも長かったと思われ、周囲のムードとは裏腹に過度の期待は禁物、と少し構えていた。それだけに初日の評判を聞き、やっと安心した次第。どうやら心置きなく楽しめそう、と思っていた。冒頭こそイントロ的なバンド演奏が長く、やっとリロイが出てきた、と思ったのに、今度はなかなかマイクに向かわない。結局 焦らしに焦らして、都合5曲目でようやく歌い始め…。そこからは現役感バリバリに滑らかなヴォーカルを聴かせ、何とも朗らかな気分を満喫させてくれた。

リロイというのは、もちろん歌の上手い人だけど、ソウル系にしてはそれほど押しが強くなく、マーヴィンのようなセックス・アピール、カーティスみたいな繊細さにも乏しい。ダニー(ハザウェイ)やビル・ウィザースと比べても、熱気は低めである。だからインテリジェンスは感じるのに、何処か控え目でチョッとだけ物足りなさが残る。ライヴでも悪戯にオーディエンスを煽ることはせず、「立て立て!」というジェスチャーさえ見せなかった(他のショウは分からないが…)し、コール&レスポンスをやっても、軽い盛り上がりで終わってしまう。だから、騒ぎたい・踊りたい、という気持ちで来たファンは、若干拍子抜けしたかもしれない。でも自然の流れに任せる彼の流儀は、日本人の国民性にマッチする気がして、非常に心地良い安心感、ゆったりした包容力を感じた。バカ騒ぎのパーティ・タイムではなく、ワイン・グラスを持ったまましなやかに体を揺らす感覚、とでもいうか。きっと人柄も、誠実で実直な人なんだと思う。

サウンド的にもカートム時代の70年代感そのまま。そこが如何にもUK勢のバンドという雰囲気で、当時の伝統的スタイルをシッカリ貫いている。リロイのローズの上にはMACが置いてあったので、同期も使っているのだろうが、実際に鳴っている音はヴィンテージなバンド・サウンドばかり。ただところどころでストリングスやコーラスが妙に厚かったり、ドラマーがテンポを調整するような瞬間があったので、どうも何処かで同期が走っているっぽい。妙だなー、何だろうなー。その不思議な感じに答えをくれたのは、終演後にロビーで出会ったSWING-O氏(現FLYING KIDS)で、要は当時の音源をそのまま同期で流し、そこにバンドを乗せている、と種明かししてくれた。なるほどねー。そういえばリロイは時々立ったまま鍵盤に触れるくらいで、ガッツリ弾くことは終ぞなかったな。

セットリストは、昨年組まれた『ANTHOLOGY 1972-1984』収録曲がほとんどで、それすなわち、日本のフリーソウル世代のファンが丸ごと楽しめる内容だった。オーディエンスも若いファンが多く、ジェネレーション・バランスが良い。よく考えれば、自分が(ほぼ)リアルタイムで聴けたリロイ作品がブランク直前の『PARADISE』で、しかもブラコン全盛期にあっては少々ピントがズレた作品だった。その後1枚遡って『UNFORGETTABLE』(79年)を聴いたものの響かず、それ以上は深追いしないまま時を過ごした。…っていうか、当時はカートムのアナログ盤って結構レアで、リロイもカーティスも安くなかったのヨ。今になれば、それでイイ時期のリロイに触れ損なってたのが分かるののだが…。

そういう意味では、もうすぐアラ還のカナザワも、リロイに関してはレア・グルーヴ世代と似たようなもの。言い換えれば、70年代のリロイをオンタイムで知ってるのは、ホンの一握りの60歳代ソウル・ファンだけで、あとはみんな後追いみたいなモノだ。だから、他のソウル系ライヴには生まれ得ないような、世代を超えた一体感が漂っていたのだと思う。

ちなみにジゼル嬢が歌った2曲は、共にリロイがプロデュースを手掛けたアーノルド・ブレアとヴォイセズ・オブ・イースト・ハーレムの楽曲。そういうトコロで実にさりげなくプロデューサーとしての手腕をアピールするあたりも、やはりこの人らしい。

とにかく、楽曲の魅力もさることながら、リロイのアーティストとしての佇まいが、ニューソウル〜シティ・ソウルそのもの。この手では、カーティスとダニーが一番好きかな〜、なんて思っていたカナザワだけど、これからはそこにリロイが喰い込んできそうです。

 《1st set list》

1. Cool Out (introduction)
2. Getting It On(band only)
3. Don't It Make You Feel Good (Leroy in)
4. Lover's Holiday (sax solo)
5. It's Different
6. All Because Of You
7. So In Love
8. Love The Feeling
9. Never Know What You Can Do
10. So Nice
11. Cashin' In (Gizelle Smith)
12. Tryin' To Get Next To You (Gizelle Smith)
13. Lucky Fellow
- Encour -
14. Don't It Make You Feel Good
15. Now That I've Found You