時は過ぎゆく。多くのものが変わる。
しかしながら、変わらないものもある…。
lyrics from the song "Bluebird Blue"
マイケル・フランクスの、通算18作目となるオリジナル・アルバムが届いた。タイトルは『THE MUSIC IN MY HEAD』。前作『TIME TOGETHER』から約7年ぶり。マイケルは73歳になった。でもその世界観は、何ひとつ変わらない。このアルバムも、聴いた瞬間に70年代の初期名盤『THE ART OF TEA』や『SLEEPING GYPSY』のイメージが大きく広がる。囁くようなマイケルのヴォーカルは、時に “ヘタウマ” などと揶揄されながらも、何モノにも左右されないワン&オンリーの自己表現スタイルを確立し、それを頑なに貫いてきた。
でもマイケル自身は変わらなくても、周囲の変化や時の流れに晒されることは少なくない。彼のエネルギー源は、紅茶とオーガニック・フード、愛犬の散歩に水中ジョギング。創作のインスピレーションは大自然から得ている。でもその静謐かつインテリジェントな表現の裏側に、多くの感情の起伏が滔々と流れており、時にはスタジオ・ワークが滞ってしまうこともあった。
特に去年は、3月に大恩人トミー・リピューマが、9月にスティーリー・ダンのウォルター・ベッカー(90年作『BLUE PACIFIC』にプロデュース参加)が、相次いで世を去った。特にマイケルが喪失感を味わったのは、ここ数作、必ず参加していたギタリスト:チャック・ローブを亡くしたことだった。今回もチャックは<As Long As We’re Both Together>のプロデュースを手掛けている。マイケルが今作のプロジェクトで最初にデモ・テープを制作したのがコレで、それを受け取ったチャックは癌との闘病中にも関わらず、早々に素晴らしいアレンジとギター・ソロを送ってきて、マイケルを驚嘆させたそうだ。が、チャックはそのまま7月に旅立ち、憔悴したマイケルは数ヶ月間、このプロジェクトを止めざるを得なかったという。
そのほか、ギル・ゴールドスタイン、ジミー・ハスリップ、マイケルのツアーのバンド・マスター:チャールズ・ブレンジグ、そして『WATCHING THE SNOW』以降の良き理解者スコット・ペティートがをプロデュースを分担。参加ミュージシャンもエリック・マリエンサル/ゲイリー・ミーク(sax)、ホメロ・ルバンボ(g)、ヴェロニカ・ナン(cho)など常連たちが名を連ねた。前作に1曲参加したデヴィッド・スピノザが、随所で印象的なギター・ワークを披露しているのも嬉しいところである。
でも一方で、マイケルとは初顔合わせとなる興味深い顔ぶれも多くて…。それが、神保彰の最近のソロ活動を支えるオトマロ・ルイーズ(pf)、ウェイン・ショーターのセッションやステップス・アヘッドで活躍し、かつてはピーター・ゲイブリエルのツアーにも抜擢された才媛レイチェル Z(kyd)。またニューヨーク・ベースのベン・ペロウスキーは、マイク・スターンからジョーン・ゾーンやラウンジ・リザースといった前衛派、ジョン・ケイルにイギー・ポップ、ルーファス・ウェインライト…と実に多彩な共演歴を持つジャズ・ドラマー。いわばこのコラボは、何かの化学反応を誘発させ得る組み合わせで、もしかしてデヴィッド・ボウイの遺作『★(ブラックスター)』にインスパイアされたか?と想像を逞しくしてしまう。
それでも表層的には何ら変わらず、ただただリラックスして聴けるのがマイケル作品。ピリリとスパイスを忍ばせていても、それはいわば隠し味で、サラリと聴き流していると何も気づかない。これを70年代から続けているのだから、柔らかな物腰とは裏腹にかなり頑固と言えるし、強靭なアイデンティティの持ち主に相違ない。「コレしかできない」のではなく、「コレしかやらない」。そこにマイケルの美学があるのだ。
ちなみに、マイケルとは旧知の仲であるベン・シドランの息子リオ・シドランの新作は。そのアルバム名もズバリ、『COOL SCHOOL – The Music of Michael Franks』というマイケル作品のカヴァー集。タイトルの原曲は『RENDEZVOUS IN RIO』所収と比較的新しいものの、そこではマイケル自身がゲストで参加。“僕はモーズ(アリソン)やチェット(ベイカー)を聴いて育った、古くさい男”という箇所を、リオが “僕はベンやフランクスを聴いて…”と歌い、“クール・スクール最初の卒業生” として胸を張る。もちろんこれ以外は、マイケル・ファンなら避けられぬ定番曲オン・パレード。ファンの方は、リオのマイケル・ソングブックも是非チェックのほどを。
なおマイケルの新作『THE MUSIC IN MY HEAD』は、カナザワ監修シリーズ【LIght Mellow Searches】 from P-VINE から、23日発売予定です。
特に去年は、3月に大恩人トミー・リピューマが、9月にスティーリー・ダンのウォルター・ベッカー(90年作『BLUE PACIFIC』にプロデュース参加)が、相次いで世を去った。特にマイケルが喪失感を味わったのは、ここ数作、必ず参加していたギタリスト:チャック・ローブを亡くしたことだった。今回もチャックは<As Long As We’re Both Together>のプロデュースを手掛けている。マイケルが今作のプロジェクトで最初にデモ・テープを制作したのがコレで、それを受け取ったチャックは癌との闘病中にも関わらず、早々に素晴らしいアレンジとギター・ソロを送ってきて、マイケルを驚嘆させたそうだ。が、チャックはそのまま7月に旅立ち、憔悴したマイケルは数ヶ月間、このプロジェクトを止めざるを得なかったという。
そのほか、ギル・ゴールドスタイン、ジミー・ハスリップ、マイケルのツアーのバンド・マスター:チャールズ・ブレンジグ、そして『WATCHING THE SNOW』以降の良き理解者スコット・ペティートがをプロデュースを分担。参加ミュージシャンもエリック・マリエンサル/ゲイリー・ミーク(sax)、ホメロ・ルバンボ(g)、ヴェロニカ・ナン(cho)など常連たちが名を連ねた。前作に1曲参加したデヴィッド・スピノザが、随所で印象的なギター・ワークを披露しているのも嬉しいところである。
でも一方で、マイケルとは初顔合わせとなる興味深い顔ぶれも多くて…。それが、神保彰の最近のソロ活動を支えるオトマロ・ルイーズ(pf)、ウェイン・ショーターのセッションやステップス・アヘッドで活躍し、かつてはピーター・ゲイブリエルのツアーにも抜擢された才媛レイチェル Z(kyd)。またニューヨーク・ベースのベン・ペロウスキーは、マイク・スターンからジョーン・ゾーンやラウンジ・リザースといった前衛派、ジョン・ケイルにイギー・ポップ、ルーファス・ウェインライト…と実に多彩な共演歴を持つジャズ・ドラマー。いわばこのコラボは、何かの化学反応を誘発させ得る組み合わせで、もしかしてデヴィッド・ボウイの遺作『★(ブラックスター)』にインスパイアされたか?と想像を逞しくしてしまう。
それでも表層的には何ら変わらず、ただただリラックスして聴けるのがマイケル作品。ピリリとスパイスを忍ばせていても、それはいわば隠し味で、サラリと聴き流していると何も気づかない。これを70年代から続けているのだから、柔らかな物腰とは裏腹にかなり頑固と言えるし、強靭なアイデンティティの持ち主に相違ない。「コレしかできない」のではなく、「コレしかやらない」。そこにマイケルの美学があるのだ。
ちなみに、マイケルとは旧知の仲であるベン・シドランの息子リオ・シドランの新作は。そのアルバム名もズバリ、『COOL SCHOOL – The Music of Michael Franks』というマイケル作品のカヴァー集。タイトルの原曲は『RENDEZVOUS IN RIO』所収と比較的新しいものの、そこではマイケル自身がゲストで参加。“僕はモーズ(アリソン)やチェット(ベイカー)を聴いて育った、古くさい男”という箇所を、リオが “僕はベンやフランクスを聴いて…”と歌い、“クール・スクール最初の卒業生” として胸を張る。もちろんこれ以外は、マイケル・ファンなら避けられぬ定番曲オン・パレード。ファンの方は、リオのマイケル・ソングブックも是非チェックのほどを。
なおマイケルの新作『THE MUSIC IN MY HEAD』は、カナザワ監修シリーズ【LIght Mellow Searches】 from P-VINE から、23日発売予定です。