swing out sister 018

オリジナル新作としては『BEAUTIFUL MESS』以来、約10年ぶり。その間にジャズ・アレンジのセルフ・リメイク集『PRIVATE VIEW』を出したり、結成30周年ベストを組んだが、やはりお久しぶり感は強い。しかしその一方で、バーシアやマット・ビアンコ、ブロウ・モンキーズあたりが相次いで新作を発表、かのシャーデーも映画のサントラに楽曲提供と、同じ頃に人気を博したUK / EUの洒脱系ベテランが活発に動いている。それに触発されたワケじゃないだろうが、当時かの<Breakout>にヤラレちゃったクチとしては、この活況には思わずニンマリさせられる。

ただ、今更<Breakout>じゃないと分かっていても、このアルバムは個人的にちょっと大人しめに過ぎるかな。ジャズというほどジャズしてないし、そういう意味ではポップス以外の何モノでもない。けれどその音は、何処までもゆったりしていてアダルト。ストリングスを効果的に交え、ゴージャスに聴かせてくれる。でもカナザワの好みとしては、もうチョイ、スパイスが効いていた方が良くないか? 既定路線的な部分があるとは言っても、スイング・アウト・シスターにはもう少し動きのある楽曲を期待したい。

もちろん1曲1曲は全然悪くない。仮に深夜グラスでも傾けながら流していると、ピッタリとハマりそうな音だ。ジックリ聴き込めば、ジワジワ味わいが増してくる、そうしたていねいな作りが為されている。でもそういう楽曲ばかり並んでしまって、オシャレ・ポップな感覚を失なってしまうなら、もうスイング・アウト・シスターである必然性はない、ということにならないか。同時にあまり開かれた感じがしないから、新しいファンの獲得は難しいと思ってしまう。

解説によれば、このアルバムは、ロンドンのミュージシャンが起業した、音楽専門のクラウドファンディングで制作資金を調達したそう。…ということは、予めスウィング・アウト・シスターの音を知っている人がパトロンとなったワケで。しかも資金集めと同時に、制作の模様をオンラインで公開していたというから驚く。つまり、つまらなそうなモノを作っていたら、資金が集まらなくなるプレッシャーと背中合わせなのだ。でもそれでこの音、ということは、彼らについているUKのファンは、もう<Breakout>じゃないコトを充分に理解しているのだろう。

サッカーのワールドカップじゃないけれど、なんか、その筋の先進国は、やっぱりやるコトが違う。ちなみにジャケに写っているのは、ブルゾンちえみ じゃありません…