turley richard

明日発売のワーナーミュージック・ジャパン【新・名盤探険隊 紙ジャケ編】 AOR系5作品、候補出しからボーナス曲、おおよその解説執筆(Wilson Bros.解説を除く)まで、実質監修しました。フィジカルに厳しいこのご時世、メーカーの方針によって廉価盤で大量復刻に向かう所、数を絞り込んで内容を濃くしていく所とアクションは違うけれど、そもそもAORに理解が薄いトコロもある中、まずはパッケージで出してくれるだけで御の字。再発の火を絶やさないためにも、リスナーの皆さんの応援は不可欠です。

さて、その再発シリーズから最初のご紹介は、今回 唯一の世界初CD化となるターリー・リチャーズ『THERFU(錆びた夜)』。一般的にはフリートウッド・マックのバックアップで世に出た1枚として知られるが、AOR的には、ポップ職人:トム・スノウが書き、ランディ・クロフォードで有名になった<You Might Need Somebody(とどかぬ思い)>の先行ヴァージョンが聴けるのがポイントだろう。ランディ版は81年作『SWEET COMBINATION(愛の諜報員)』に収録され、全英チャート11位のヒット。97年には新人ショーラ・アマが再び全英4位とリヴァイヴァルさせている、91年にはジョー・ウォルシュのカヴァーも。その名曲の初出が、80年に全米54位をマークした、このターリーのヴァージョンだった。

41年生まれのターリーだから、この時すでに40歳代目前。しかも幼少期の事故で盲目となったが、声の良さが評価されてか、18歳でオハイオ州シンシナティのローカル・レーベルで初レコーディングを行っている。その後64年にMGMから本格デビュー。20th Centuryからの初アルバムは、ジャズ・ヴィブラフォン奏者のゲイリー・マクファーランドがプロデュースし、アイズレー・ブラザースやチェック・ベリー、バート・バカラック作のチャック・ジャクソン・カヴァーなど、かなりクロい内容だったらしい。70年には、ヴァン・モリソンを手掛けたルイス・メーレンシュタイン制作による『TURLETY RICHARDS』、71年にはザ・セクションの面々を従えた『EXPRESSIONS』、76年には我が『AOR Light Mellow』にも掲載したグルーヴィーな佳作『WEST VIRGINIA SUPERSTAR』をリリース。その後ケンタッキー周辺でくすぶっていたところ、たまたま縁がマックのマネージメントに繋がった。

ローカル盤も含めると、通算6作目のアルバムになるという本作『THERFU』。エグゼクティヴ・プロデューサーにミック・フリートウッドが就いてドラムをプレイし、元マックのボブ・ウェルチがベース。ジャケットのカヴァー・アートは、何とリンジー・バッキンガムが描いている。全10曲中8曲はターリーの作で、中にはベン・E・キング<Stand By Me>のカヴァーも。この有名曲は、だいたいベタなアレンジでそのまま歌われることが多いが、ターリー版は時代を反映したAOR技法が見事。個人的にはモーリス・ホワイト版に匹敵するお気に入りである。

70年代前半のターリーを知る人は、今作を “ただのAOR” と卑下しがちだ。でもゴスペルやR&Bをルーツに持つターリーの歌いっぷりは些かも変わらず、ムセるような情感で歌い込んでいる。何よりターリー自身が、悲しいハンデをモノともしない不屈の精神の持ち主。その歌唱から伝わる熱情は、AORとか何だとか、小さいカテゴリーにこだわるチンケなマニアを凌駕するだろう。