michael sembello 1st

カナザワがいろいろ絡んでいるワーナーミュージック・ジャパン【新・名盤探険隊 紙ジャケ編】 AOR系5作品から2枚目のピックアップは、マイケル・センベロが83年に発表した衝撃的デビュー作『BOSSA NOVA HOTEL(邦題:マニアック)』の初・紙ジャケット化。一部には、“ふんどしジャケ” として有名(?)です。

まぁ センベロの場合、何を差し置いても全米No.1ヒット<Manic>になってしまうんだけど、映画『FLASHDANCE』のサントラとして成功したシングル・テイクと、このアルバムで聴けるテイクは、実派同じモノではない。…といってもアレンジから電光石火のギター・ソロまで、ほとんどクリソツ。要は、サントラとこのソロ作のレーベルが違うので、リ・レコーディングを余儀なくされたのだろう。

そもそもホラー映画のマニアだったセンベロは、この曲を書きあげた時、そちら系のサントラに提供するつもりでいたらしい。ところが、ちょっとした手違いでプロデューサーのフィル・ラモーンにこの曲のデモを渡してしまい、引っ込みみがつかなくなったというのがヒット誕生の真相だとか。

もともとセンベロは、スティーヴィー・ワンダーのワンダーラヴ出身のギター弾きで、その後セルジオ・メンデスやジョージ・デュークに重用。でもそのまま一介のセッション・マンには留まらず、ダイアナ・ロス<Mirror, Mirror>の筆頭に、ルーサー・ヴァンドロスが手掛けたシェリル・リン『INSTANT LOVE』、トミー・リピューマ制作のランディ・クロフォード『WINDSONG』、ジョージ・デュークがプロデュースしたジェフリー・オズボーンのソロ・デビュー作、クインシー・ジョーンズが手掛けたドナ・サマー『DONNA SUMMER(恋の魔法使い)などに楽曲提供し、注目を集めていた。更にデヴィッド・サンボーンの83年作『AS WE SPEAK(ささやくシルエット)』にフル参加し、ギター/ヴォーカル/ソングライターとして活躍。そこへ『FLASHDANCE』のサントラ、そして本作でソロ・デビューと畳み込んだ。

本作プロデュースも、ビリー・ジョエルやポール・サイモンでお馴染みフィル・ラモーン。奇妙なアルバム・タイトルは、当時センベロが所有していたスタジオの名前である。作曲やサウンド・メイクのパートナーは弟ダニー・センベロ。そこにセル・メンの下で知り合った妻クルス・ベイカや兄ジョンが加わった。更に御大ジョージ・デューク、ワンダーラヴの重鎮ネイザン・ワッツ(b)、ヴィニー・カリウタやカルロス・ヴェガ(共にds)、ドン・フリーマン(kyd)、ジェリー・ヘイ率いるホーン・セクションといったスタジオ仲間たちが参集。L.A.きっての売れっ子パーカッション奏者:ポウリーニョ・ダ・コスタ、ストリングス・アレンジ&指揮のオスカー・カストロ・ネヴィスは、共にセルメン人脈から。作詞面で貢献するデヴィッド・バトゥは、兄ロビン(アパルーサ〜コンプトン&バトゥ〜ピアース・アロウ)との兄弟ユニット:バトゥで知られ、76年にはA&Mでソロ作『HAPPY IN HOLLYWOOD』を出している。

収録曲では、マリリン・スコットの2nd 『WITHOUT WARNING』で歌われた<First Time>のセルフ・ヴァージョンも。デュークとセンベロがトリッキーに掛け合う<Godzilla>、愛妻クルスとの哀愁デュエット<Talk>あたりも聴きモノといえる。<Lay Back>ではネヴィスの荘厳なストリングスが効果的。<Superman>のヴォーカル陣には、セルメン『SERGIO MENDEZ(愛をもう一度)』で<Never Gonna Let You Go>(全米4位)を歌ったリサ・ミラーの名もある。<Maniac>に続いてチャートインしたのは、エレポップ・ファンクで34位まで上昇した<Autmatic Man>だった。

AORカテゴリーで語られつつも、作品的にはシンセやエレキ・ドラムが幅を利かせる80’s的なアダルト・モダン・ポップ。その一方で、オモチャ箱をひっくり返したような遊び心もある。そのアンビバレンスが初期センベロの面白さ。そう考えると、緻密に作り込んだ2nd『WITHOUT WALLS』(86年/A&M)がコケてしまったのも分からないではないな。