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ようやく!のマンハッタン・トランスファー、最新作。アルバムとしては09年『THE CHICK COREA SONGBOOK』以来、何と9年ぶり。しかも14年に、結成メンバーでリーダーだったティム・ハウザーが逝去。それでも残った3人は、早々に男声アカペラ・グループ M-Pact のトリスト・カーレスを迎え、活動を継続させていた。だから余計に、ファンは新生マンハッタン・トランスファーのアルバムを待ち焦がれていたと思う。来日公演も何度か行われていたから、その新生マン・トラをナマで見た方なら尚のことだろう。

でもこ久々の新作、かなり攻めてる それこそ、彼らのような大ベテランのコーラス・グループが今になってココまでやるのか、と思ったくらいビックリ。

マン・トラといえば、そのピークは間違いなく80年代だ。それからジワジワ下降線を辿り始め、00年代はあまりパッとしなかった。コンテンポラリー・ジャズの象徴的ヴォーカル・グループだけに、高評価を維持しライヴでは相応の客を集めるが、その安定感が逆に地味に映っていたのは否めない。マンネリではないけれど、彼ら自身が若干ジャズ寄りにシフトしたこともあって、一般音楽ファンから衆目を引く話題性には乏しかった。

でもそれはメンバーにも分かっていたのだろう。本作の大きな目的は、不可避的メンバー交替を機にリフレッシュを図ること。それもマン・トラらしさを失わずにアップデイトする。デビュー当時のノスタルジックなイメージを、ジェイ・グレイドンのサウンド・プロダクツで払拭してモダン・ポップ路線を歩みだした『EXTENSIONS』(79年)のような、ああした位置付けの作品が欲しかったと思うのだ。この新作を 接続・接合・分岐点などを意味する『THE JUNCTION』と名付けたのは、そんな気持ちの表れだと思う。

今回のプロデュース/アレンジは、元テイク6のマーヴィン・ウォーレン。ホイットニー・ヒューストンやマイケル・ジャクソンを手掛けたこともある実務派で、今回は楽曲提供や各メンバーとの共作も行なっている。彼の起用の裏には、ナチュラリー7のようなアカペラ・グループが活躍したり、昨今の強力すぎるゴスペル・クワイアたちの影響もあるに違いない。でも一番のハイライトは、カヴァー曲の多彩さではないか。オープニングに持ってきたハービー・ハンコック<Cantaloop>は、英ラップ・グループのUS3が'93年に<Cantaloupe Island>をサンプル使いしたのが元ネタ。テクニカルなヴォイシングを駆使した “マン・トラらしさ” と今様のヒップな音作りが融合したゴージャスな仕上がりに驚かされるも、深く頷けるセレクトである。今更感のあるラテン定番<Tequila>には、アラン・ポールが書いた独自のヴァースを挿入して面白く。隠れファンが多いリッキー・リー・ジョーンズ<Ugly Man>も、思わずニンマリさせられるチョイスだ。レス・バクスターという巨匠の楽曲にメンバーが詞を乗せてマン・トラ流儀に仕上げる得意技は、かの<Birdland>の手法を受け継ぐものと言える。

反対に意表を突かれたのが、XTC<The Man Who Sailed Around His Soul>。トッド・ラングレンがプロデュースした86年の名盤『SKYLARKING』の斬新カヴァー。アランが主導した新曲<Swing Balboa>を一緒に書いたのが、当ブログではお馴染み:モンキー・ハウスのドン・ブレイトハウプト(kydやprogramも)というのも、メチャ嬉しい。どうやらモンキー・ハウスの新作には、マン・トラが参加しているようだ。

結果、当代コンテンポラリー・ジャズ・シーンの混成トップ・コーラス・グループとして、キャリアとプライドを親しみやすく形にした好盤が完成した。『EXTENSIONS』ほどキレキレではないし、ロッド・テンパートンの手腕でヒット街道を走った『BODIES AND SOULS』(83年)ほどキャッチーでもない。けれどこの新体制を機に、オーセンティックなジャズ・コーラスとモダン・ポップなサウンド・メイク、そのふたつのシグネイチャーを改めて構築し直し、これから進むべき道を照らして見せた。久々にライヴを観に行きたいなと思わせてくれる、そんな充実作である。