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いよいよ来週21日に待望の新作『CRITERION OF THE SENSES (クライテリオン・オブ・ザ・センシズ)』がドロップされるエヂ・モッタ。13年に出た前々作『AOR』で日本リリースが再開され、そのスティーリー・ダン/AOR愛が世に広まって、一気に知名度がアップした。前作『PERPETUAL GATEWAYS』はヒューバート・ロウズやパトリース・ラッシェン、グレッグ・フィリンゲインズらと相見えた初の米国録音盤だったが、内容は少々ジャズ寄り。対してこの新作は、『AOR』と『PERPETUAL GATEWAYS』の間に位置しつつも、相対的にはスティーリー・ダン/AOR路線を色濃く滲ませる。印象的なカマキリ・ジャケは、スティーリー・ダン『KATY LIED』やドナルド・フェイゲン『KAMAKILIAD』を髣髴させるが、これは以前からエヂのアルバムを手掛けている女性アート・ディレクターの発案によるもので、ヨーロッパの人気コミックに原案があるようだ。

ふと気づけば、前作『PERPETUAL GATEWAYS』から早2年半。エヂ自身が小まめにSNSにライヴの模様を投稿したり、如何にもレコード・コレクター的なネタをポストしているので、ご無沙汰感はまるでない。しかもポストの内容がシティ・ポップスだったり和ジャズだったり、はたまたAORの帯付き国内盤だったりして、ビシビシ親近感が湧いてしまうことが多いから、尚更である。

ただしベルリンに仮住まいして、米西海岸でレコーディングした前作から、制作環境は大きく変わった。イヤ、変わったのではなく戻ったのだ、リオ・デ・ジャネイロへと。そして気心知れた顔ぶれで、約8ヶ月を費やしてコツコツ作ったのが、このアルバムである。ちなみにギターのティアゴ・アルーダは、ブラジルの新進アーティスト:ルーカス・アルーダの兄弟。ジャズ、ブルース、ロックに造詣が深く、その情報量はさすがのエヂも敵わないらしい。

再びスティーリー・ダン・フォロワーの自分を表現しただけあって、ギターがラリー・カールトンやジェイ・グレイドンを思わせる一方で、意外にもバス・クラリネットをうまく使った曲があったり。リード・トラック<Your Satisfaction Is Mine>はアーリー80’sのディスコ・ファンク・スタイルで、アゲアゲのシンセ・ベースにハンドクラップが絡む。早い話が、ブルーノ・マーズにマーク・ロンソン、タキシードなど、80’sブギー人気への意識を凝縮させたようだ。これはデビュー当時のエヂを知っていると、思わずほくそ笑んでしまうこと必定。

そして本編ラスト<Shoulder Pads>は、エヂがベルリンにいた頃に書いたポップ・ロック・チューンで、ギターがドライヴする産業ロック・スタイルになっている。近年のエヂのイメージからは外れるが、彼の世代は元来ジャーニーやフォリナー、REOスピードワゴン、ラヴァーボーイあたりを真正面から受け止めた世代。本人曰く、“80年代の論争の時代をユーモラスに表現した” そうで、妙な色眼鏡で見ているのは我々リスナーと言えよう。

タイトルの "Criterion Of The Senses" とは、〈センスの尺度〉という意味深な言葉。
「これこそが、私の手元にある楽曲を選りすぐって、自分のレパートリーを編成していく方法なんだ。この曲は私が自分でレコーディングしよう、こちらは別のプロジェクトやサウンドトラック用にキープしておこう、ってね」

なるほど、ミュージシャン/アーティストのエヂを形成しているのは、リスナーとして育ててきた感性、というワケ。格差社会・分断社会は、若い音楽リスナーの間に広がっている。

…にしても、エマニエル夫人張りのカマキリさんの左隣は、どうみてもエヂ・カマキリの様相。一番左の銅像は、まるきり仮面ライダーだな