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デヴィッド・サンボーンやプリンス、ベン・シドランらのブレーンとして名を馳せ、日本ではAORフリークからも熱く注目される kyd奏者/シンガーのリッキー・ピーターソン。セッション・ミュージシャンとしてもジョージ・ベンソン、チャカ・カーン、アル・ジャロウ、スティーヴィー・ニックス、ジョン・メイヤーなどのレコーディングに参加し、絶大な信頼を得ている。90年に初リーダー作を発表。ビル・ラバウンティのAOR名曲を2曲カヴァーするなどして脚光を浴び、その後も3枚のソロ作を続けたが、00年以降は自主制作でベスト盤を組むに止まっていた。そのリッキーが、約20年ぶりとなるリーダー作に取り組んだのが、この『DROP SHOT』である。

ただしこのアルバムは、ドイツのケルンに本拠を置くWDRビッグ・バンドとの共演作。言わば企画アルバムで、アイディア自体はバンド側からもたらされたようだ。WDRビッグ・バンドは、ドイツに巨大なメディア・ネットワークを持つWDR専属のビッグ・バンドで、結成は80年。これまでにもブレッカー・ブラザーズやジョー・ザヴィヌル、ステップス・アヘッド、ハイラム・ブロック、ジョン・スコフィールド、ロン・カーターなど、錚々たる顔ぶれとレコーディングを行なった名門ビッグ・バンドである。

対してリズム・セクションは、おそらくリッキーの人選だろう。ベースはやはりプリンス・ファミリーの弟:ポール(St.Paul)、ドラムにサンボーン・バンドの盟友ジーン・レイク、ギターはメゾフォルテに在籍したこともあるドイツ人:ブルーノ・ミュラーという顔ぶれで、イエロージャケッツのボブ・ミンツァーがアレンジ&コンダクトで全体の統率を取る。もちろん一部の楽曲では、豪快なテナー・サックスも。コーラス参加のパティ・ピーターソンは妹のようだ。

収録曲は、タイトル曲<Drop Shot>やボビー・コールドウェル<Do You Love(風のシルエット)>といったリッキーのアルバム収録曲、サンボーンの<Sneakes>や<Full House>を中心に、スライ&ファミリー・ストーン<Thank You For The Letting Me Be Myself>やプリンス<Sexy MF>をインストにしたり…の全8曲。ビッグ・バンドだけに豪華なホーン・セクションが耳につくが、唸りを上げるリッキーのハモンドが相当に心地良く、レイ・チャールズ<I've Got News For You>のようなブルース・ナンバーで本領を発揮する。考えてみれば、サンボーンの2曲もリッキーがオルガンを弾き倒した92年作『UPFRONT』からのセレクトだ。

またヴォーカル曲は、<Do You Love>と<I've Got News For You>の他に、これまたレイ・チャールズが取り上げていた<Feel So Bad>の3曲。つまりレイ楽曲が2曲あるワケで、これはピーターのルーツをそのまま表現したものと思われる。<Do You Love>もリッキーはオルガンとヴォーカルに徹し、都会的なハーモニーやメロウな雰囲気作りは専らホーン・セクション任せ。少しヒネリの入ったトータル・フレイヴァーは2nd『SMILE BLUE』の時のままだが、その醸成をビッグ・バンドに委ねている。

つまり本作は、リッキーのソウル・ジャズ的側面を聴かせるビッグ・バンド作品なのだ。したがってAORしたヴォーカル・チューンだけに期待すると、ちょっと外すコトになる。でももっと鷹揚な音楽観を以てリッキーのタレントに触れようとするなら、これはなかなか面白い作品となるだろう。実際自分はコレを聴き、リッキーがタワー・オブ・パワーに加入したらどうなるか、なんて夢想していた…