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『福音書〜THE GOSPEL』と名付けられたスティーヴ・ルカサー自伝が先月末に発刊、好評を呼んでいる。ずいぶん前から出ることは知っていたが、自分のところに巻末の解説執筆の依頼がやってきたときはビックリ。自分は確かにAORフリークだけれど、ルカサー・ワークスを積極的に追っ掛けていたのは昔の話。ルーク主導でロック・フュージョン色が濃くなってからのTOTOには、あまり熱心になれていなかった。まして自分はギター弾きではないから、もっと相応しい人が他にいるのでは?とも思った。

でもこの書は、ルークのプレイを分析・解説したり、ワークスや使用機材を紹介するものではない。波乱万丈…とは言わないまでも、酒やクスリに溺れながら、その苦難を乗り越えて人気ギタリストとなった彼の半生を描くものである。翻訳の草稿を読ませてもらって、その明け透けな筆致、妙に気取ったりせず普段の会話のように書き綴った内容に、ルークの巣の姿を見た気がした。

パブリックには、スタジオ・ミュージシャン集団として知られるTOTOも、元々は近所の悪ガキたちが組んだハイスクール・バンドの延長。普通の学生バンドはダンス・パーティや場末のライヴ・ハウスで腕を磨くところを、エンタテイメント産業のメッカであるハリウッドで育った彼らは、親たちがセッション・ミュージシャンだった関係でレコーディング・スタジオが主な修練の場になった。メンバーたちは敏腕セッションマン集団である以前に、気持ちを同じくする仲間たち。その絆の強さが本書にはダイレクトに描かれている。

また当時ティーンエイジャーだったバンド仲間の多くが、TOTOのみならず、後年のLAの音楽シーンで大きく活躍していくのも驚かされる。ジェフ・ポーカロとデヴィッド・ペイチが組んでいたルーラル・スティル・ライフが弟スティーヴ・ポーカロに引き継がれ、その名もスティル・ライフとして再始動した時のメンバーが、スティーヴ・ポーカロ、ルカサー、マイケル・ランドウ、カルロス・ヴェガ、ジョン・ピアース(パブロ・クルーズ〜ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース)。そのピアースと仲が良かったのがドラマーのマーク・T・ウィリアムスで、そのイカレた弟がジョセフ…。その交流がどんどん広がり、互いの切磋琢磨が新たな仕事を呼び込んでいく。多忙なセッション・ワークから戻った親たちが、それでも毎日練習を怠らない姿も、メンバーたちを奮い立たせた。TOTOにはそうしたスピリットが根底にある。だからルークにとって、ポーカロ・ファミリーもペイチもいない『FALLING IN BETWEEN』ツアー時のTOTOは、TOTOであってTOTOでなかった。

ちなみに原書では触れられていなかったが(日本サイドで注釈をつけた)、ルークの最初の奥様は、ランナウェイズのシンガー:シュリー・カリーの双子の妹マリー。姉妹で出したアルバムにTOTO勢が参加していたのは、そういう事情からだった。…とはいえランナウェイズは米国ではロクに売れなかったから、ルークもマリーの詳細は敢えて書かなかったようである。でもそんなのは些細なこと。ここにはアッと驚くような秘話が随所に隠されている。マイケル・ジャクソンからの早朝電話を何度もぶった切って、「くたばれ!」と暴言を吐いたとか… とにかく良くも悪くも秘話満載で、400ページ近くを一気に読み通してしまう。

ちょうど日本では、TOTO40周年ツアーの来日を年明けに控え、いろいろ盛り上がっているところ。タイミングよく、ルークのワークスをひとまとめにした『スティーヴ・ルカサー Hero with 1000 Works』も発売されたので、彼の参加楽曲はそちらでチェックできるから、本書を補完する参考書として活用したい。ただしアチラは第三者がまとめているので、ルーク自身の思い入れと作品評価が必ずしも一致しないけれど…。

自分のように、初期のプレイは好きだったが…、と評価が割れる傾向があるルーク。でもこの本では、あまり語られることがない L.A.セッション・シーンの裏側を、売れっ子ミュージシャン自身の目線で赤裸々に語っている。TOTO成功の裏側も垣間見られる。だからルーク・ファンならずとも、きっと楽しめるはず。個人的には、デヴィッド・フォスター自伝『ヒットマン』と並んで、巻末解説を寄稿できたことが光栄だ。

なお上掲の表紙は、右側が若干判型の大きい原書です。