yamagata_emeraldyamagata_flyingyamagata_suumershadeyamagata_orgelyamagata_raibow

これもご紹介が遅くなりました。70年代に活躍した女性シンガー・シングライターで、現在は かの井上鑑夫人としても知られている やまがたすみこ。彼女のシティポップ期5作品を、拙監修【Light Mellow 和モノ】シリーズの一環として、11月末に復刻させて戴いている。いずれも2018年最新リマスタリングで、紙ジャケット仕様。初CD化ではないものの、ボーナス・トラックは時系列に沿って再構築し、レア音源も収めている。しかも解説は、ご本人へのインタビューを元に執筆。これまでの再発は、外部ライセンスなどが入り乱れていて統制が取れていない面があったから、今回の5作に関しては、まさしく決定版と言ってイイだろう。

73年のデビューから3枚目までは、与えられるままに純情可憐なカレッジ・フォークを歌っていて、その筋のファンから熱い支持を得ていた すみこ嬢。しかし、成長と共に自分のやりたいことが定まってきて、自ずと洗練度の高いポップスに向かった。そこで松本隆や惣領泰則らと邂逅。ここに復刻したのは、そうした時期の作品群である。某大手通販サイトでは、原理主義的ファンの気の毒なほど身勝手な思い込みが読み取れるが、ご本人の気持ちは、今回のインタビューでも明らかだ。それは、大ファンだったという赤い鳥が、トラディショナルなフォーク寄りの紙ふうせんと、オシャレなポップ・コーラスを聴かせるハイ・ファイ・セットに分裂したのにも似ている。当時のすみこ嬢に「キャロル・キングを聴きなさい」とアドヴァイスしてくれたのは、他ならぬ山本潤子さんだったそう。そしてコツコツと作り上げたアルバムには、当時の等身大のすみこ嬢が素直に表現されている。

それでは、復刻5作の特徴を簡単に。

● 4th album『虹〜RAINBOW〜』(74年11月発売)
前3作のカレッジ・フォーク路線を受け継ぎつつ、新しいトライアルを行なったアルバム。作編曲は所太郎(元リガニーズ〜シュリークス、後にTVレポーター)と瀬尾一三。グレープやクラフトとツアーを組むようになり、彼らや所の影響でニール・ヤングやクロスビー・スティルス&ナッシュ、ロバータ・フラックなどを聴くようになった。瀬尾のアレンジ担当曲では、カントリー・ロックやラグタイム、ソフト・ロック、そしてプロコル・ハルムからの引用も。言われるままに歌った前3作とは違い、自分でピアノを弾くなど、初めて一緒に作った実感が持てる作品になった。ボーナス曲は、かぐや姫<神田川>のカヴァー。

●5th album『オルゴール』(75年8月発売)
前作で新境地を見せたすみこ嬢が、そのベクトルを更に深化させ、自己主張を始めた作品。加藤和彦が提供したCMソング<さりげない二人>以外は自作曲のため、当時のファンには素直に受け入れられたが、進歩的サウンド・クリエイターである柳田ヒロがメイン・アレンジのため、実際は後続作より実験的要素が強い。一部のアレンジは、末期赤い鳥の渡辺俊幸が担当。後藤次利や村上ポンタ秀一も参加している。ボーナス曲は、アルバム未収の先行シングル<チューニング・ラヴ>と、小坂恭子のカヴァー<想い出まくら>。

●6th album『サマー・シェイド』(76年7月発売)
オトナの女性へのイメージ・チェンジで、従来ファンには賛否が割れた作品ながら、シティポップ的には充分すぎるほどの好盤。シングルに切られたボサノヴァ・チューン<夏の光に>、メロウなミディアム・スロウ<雨の日曜日>の2大人気曲を収録している。マリア・マルダーへの憧れを綴った小洒落たラグタイム<琥珀色のスウィング>、和テイストが漂う<白い桟橋>、ポップ・カントリーの<青い径>など、より多彩な名曲も揃った。主なアレンジャーは渡辺俊幸と吉川忠英。アルバム・ジャケットは「初めてスタイリストが付いての撮影」というが、当時19歳にしてこの清楚なお姐さま感、僕は大好きです  ボーナス曲は、14年のコンピ『Light Mellow やまがたすみこ』で約40年ぶりに蔵出しされた秘蔵音源<思い出さないで>。

●7th album『フライング』(77年7月発売)
松本隆プロデュース、鈴木茂サウンド・ディレクション、ティン・パン・アレー・ファミリー:演奏という陣容で作られ、やまがたすみこの代表作として定着しているアルバム。シンガー・ソングライターとして売ってきた彼女が、曲作りから離れてシンガーに徹するようになった試金石でもあった(自作は1曲のみ)。でも当時のファンの苦言とは裏腹に、彼女自身はこの状況をむしろ楽しんでいたそう。「どんな曲を書いて戴けるか、どんな歌を歌えるのか?」とワクワクしていたそうだ。でもその分 歌入れには時間が掛かり、鈴木茂にはリズム・アプローチを細かく指導された。松本による歌詞は、事前にすみこ嬢への入念な取材攻勢があり、自分で納得できる歌詞がちりばめられたという。また今までのリリースには参加ミュージシャンの詳細クレジットがなかったが、今回の復刻ではレコーディング・シートからメンバーを書き起こし、興味深いキャストが明らかになった。ボーナス曲は、アルバム未収のシングルB面曲<プラスティック・ラブ>、ユーミン・カヴァー<あの日に帰りたい>と山崎ハコ<望郷>の3曲。

●8th album『エメラルド・シャワー』(78年2月発売)
実質的な寿引退前のラスト・アルバムにして、カナザワ的にはすみこ嬢最高傑作。プロデューサーは、当時コロムビアのハウス・ディレクターだった大江田信(現・Hi-Fi Record Store店主)と、ジムロックこと惣領泰則の2人で、アレンジは惣領が担っている。作家陣には来生たかお・えつこ姉弟、梅垣達志、佐藤健など。村井邦彦・山上路夫の黄金コンビ作で森山良子が歌った和製ブラジリアンの名曲<雨上がりのサンバ>もココに入っている。クリスマスの定番メロをあしらった<ほろ酔いイヴ>、シティ・ソウルな<あの日のように微笑んで>など、惣領楽曲はやはりインパクト強し。ボーナス曲は、<イニシャルはK>のシングル・ヴァージョン、本作後のラスト・シングル<SF>とカップリング<秋を感じた日>、ベスト盤『すみこふぁいる Vol.2』所収の<ちょっとだけ・ちょっとだけ>、更に復帰後にご主人:井上鑑が制作した『夢みるアンの島〜プリンス・エドワード島の光と風〜』(89年)から<THE GLORY AND THE DREAM>と<SPIRIT OF PLACE>という大量6曲。

「大事な時期をこうした形で残すことができ、今また皆さんに楽しんで戴けるのは、すごくありがたいことです。でもやっぱり恥ずかしいかな…笑」 (やまがたすみこ談)