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米の大御所ジャズ・シンガーであるナンシー・ウィルソンが、13日、米西部カリフォルニア州の自宅で死去。死因は明らかではないが、長きに渡って闘病生活を送っていたという。50年代後半から本格的に歌い始め、60年にデビュー。約70枚のアルバムを遺し、グラミーも3度受賞している。享年 81歳。

日本ではお堅いオールド・スクールのジャズ・シンガーというイメージが先行し、クロスオーヴァーの時代も新しいファンを獲得できずにいたナンシー。それを打破したのは、活動が沈滞してきた90年代末になっての、レア・グルーヴ/フリーソウル方面からの再評価アプローチだった。元々オールラウンドな資質を持ったヴァーサタイル・スタイルのシンガーなので、ジャズ・スタンダードを中心にしつつも、アダルトなポップスからライト・タッチのディスコ・ダンサーまで、なんでも難なくこなしてしまう。マリーナ・ショウのようなアクの強さはなく、ややMOR寄りの洗練された歌い口が特徴だった。山下達郎<Your Eyes>のカヴァー、なんてのもあったな。

かくいうカナザワも、自分が監修したMellow Grooveシリーズで、75年作『COME GET TO DAYS』を世界初CD化(02年当時)したことがあった。本当はその前後の70年代作品も数枚、同時CD化をリクエストしていたが、そこから1枚だけ選び抜かれ、あとは頓挫。もっともその後、英Cherry Red傘下のSoul Music Recordsが2in1で順次銀盤化。今は60年代以降の主要作品なら、ほぼ手に入れられるようになった(既にプレミアかしているものも…)。

80年代は日本主導でスタンダード・スタイルに回帰した作品が多くなり、日本のジャズ・ファンが如何に保守的でステレオ・タイプかを露呈 この時期の時代性に見合った好作は、ラムゼイ・ルイスとの共演盤『THE TWO OF US』(84年)とか、日本制作盤でもオリジナル楽曲中心の『FORBIDDEN LOVER』(87年)くらいかもしれない。そうした “もう終わってる” 状態から生まれた起死回生の一作が、上掲の97年作『IF I HAD MY WAY』だった。中身は当時ハヤリのクワイエット・ストーム路線。主要曲のプロデュースには、マイケル・J・パウエル、バリー・イーストモンド、スキップ・スカボロウ、ランディ・ジャクソンらが名を連ねていたから、ナンシーの本気具合が伝わってきた。シングル・ヒットが生まれず、苦戦を強いられたようだけれど、これはよく聴いたな 数あるナンシーのシティ/アーバン・ソウルよりの作品の中でも、秀逸のコンテンポラリー・アルバムだと思う。

…というワケで、日本での真っ当な再評価を望みつつ、Rest in Peace...