valerie carter_lost

西海岸のミュージシャンたちからマスコットのように愛され、その筋の音楽ファンからは友人のように親しまれたヴァレリー・カーター。近年は実質的引退状態にあったが、17年3月に急逝。彼女の自宅や友人宅、親しかったジャクソン・ブラウンの倉庫などから発掘された未発表音源をまとめてリリースされたのが、本作『LOST TAPES』である。

CDを回すと、いきなりヴァレリーの愛くるしい歌声がアカペラで登場。曲もファンにはお馴染み、<The Blue Side>だ。今作のプランニングから関わっている長門芳郎さんの解説によれば、1stアルバム収録時のアウトテイクをエディットしたもので、この一瞬で心を持って行かれる人が少なくないだろう。この<The Blue Side>は、アルバム最後(ボーナス曲を除く)にも別ヴァージョンで収録されている。

当人逝去後の発掘音源なので、参加ミュージシャンや録音時期が明らかでないトラックが多いが、ローウェル・ジョージとの共作があったり、リンダ・ロンシュタットやニコレット・ラーソン、ローレン・ウッドがゲストで歌っていたり…。特に話題になのが、70年代末頃に書いたとされるプリンスとの<I Got Over It>だ。この意外な顔合わせは、ヴァレリーの当時のマネージャーがプリンスのマネージメントを手掛けるようになったのがキッカケだそう。どうやら、78年の2nd『WILD CHILD』に次ぐアルバムのデモ・レコーディングだったらしく、2枚目同様にジェームス・ニュートン・ハワード制作の下、ジェフ・ポーカロやデヴィッド・ハンゲイトが参加している。ジェフはローウェルのセッションにも参加しており、そちらではビル・ペインやフレッド・タケットらとプレイしているようだ。

もうひとつ、なんとも微笑ましいカヴァーが、シレルズのヒット<Baby It's You>(61年・全米5位)、ビートルズやカーペンターズでもお馴染みのヒット曲だが、ココではヴァレリー、ニコレット、ローレンの仲良しトリオで歌っている。

録音時期もソースもまちまちなので、どのトラックも完成度自体は高くない。それでも楽曲的には好曲多数で「何故にお蔵入り?」と思うモノがアチコチに。カヴァー・アートをデザインしたのも、かのラリー・ジョン・マクナリーだそうだ。

ちなみにヴァレリーが亡くなって間もない昨年6月には、96年の復帰作『THE WAY IT IS』が、入手困難になっていたミニ・アルバム『FIND A RIVER』と抱き合わせの2枚組としてアナログ化されている。その時点では今イチ話題にならなかったので、このタイミングで再チェックを。