melissa_mathmatics

連休明けだから…、というワケでもないが、連続打ち合せに新年会と午後からバタバタ。新年会は、レコード会社や出版関係者などの有志10人足らずでの年明け恒例宴席で、年1回ここでしか会わない人がいたりする。でも去年は、集まった人のほとんどと直・間接的に仕事ができた。いつの間にか内輪で「カナザワ会」と呼び名が付いていて苦笑したが、まぁ、今年も皆さんと仕事ができたら嬉しいなぁ。

そんな中、レビューの執筆絡みで聴いているのは、10月頃にようやくリイシューされたメリサ・マンチェスター唯一の未CD化作品『MATHMATICS』である。

『MATHMATICS』は、メリサが85年にMCAへ電撃的移籍して発表した、MCAからのワン&オンリー・アルバム。彼女は73年にベル・レコードでデビューし、そこを母体に設立されたアリスタにそのまま吸い上げられ、多くのヒットを飛ばしてきた。クライヴ・デイヴィスが目を掛けてきたバリー・マニロウとまったく同じパターンで、元来はシンガー・ソングライターながら、メインストリームの実力派シンガーであることを強くアピール。歌い上げ系のバラードを中心に、ベル〜アリスタを通じて11枚のアルバムを発表している。70年代終盤は若干人気に陰りが出たが、名匠アリフ・マーディンをプロデュースに迎えた82年作『HEY RICKY』(通算10作目)から、トム・スノウ作<You Should Hear How She Talks About You(気になるふたり)>が全米トップ5入り。長い髪をバッサリ切ってのイメージ・チェンジも功を奏し、見事に人気を復活させた。時の邦題が『きれいだね、メリサ』という小っ恥ずかしいモノだったのも、今やイイ思い出(ホントかッ) しかし後続作『EMERGENCY』がタイトル通りの状況となり、新風を呼び込みたいメリサの意向を尊重したか、住み慣れたはずのアリスタを離れてMCAへ移籍した。

かくしてこのアルバムは、<気になるふたり>のヒットにあやかるべく、とことんポップな作りに徹している。プロデュースを担ったのは、ジョージ・デューク、当時クインシー・ジョーンズの事務所に所属いていたブロック・ウォルシュが各4曲づつ。それにロビー・ブキャナン、トレヴァー・ヴェイチが各1曲という布陣。更に突っ込むと、ロビー・ネヴィルがブロック・ウォルシュの参謀役を務めていたり、グレッグ・マティソンもアレンジで。参加ミュージシャンに目を遣れば、スティーヴ・ルカサー/マイケル・ランドウ/ダン・ハフ/マイケル・センベロ/リー・リトナー/ポール・ジャクソンJr.(g)、グレッグ・フィリンゲインズ/トミー・ファラガー(kyd)、ジョン・ロビンソン/カルロス・ヴェガ(ds)、エイブ・ラボリエル/フレディ・ワシントン(b)、リチャード・ペイジ&スティーヴ・ジョージ/トミー・ファンダーバーク/トム・ケリー/ウォーターズ/アンドレ・クラウチ/タタ・ヴェガ(cho)、シーウインド・ホーンズと、まさに豪華絢爛、これでもか状態。作曲陣もトム・スノウは当然ながら、ジョン・リンドやまだ駆け出しだったダイアン・ウォーレンが名を連ねる。

でも楽曲はそれなりなのに、やっぱり音はメリサの持ち味と噛み合っていない。時流の音に寄ってしまって、メリサの歌の上手さが生かされてないのだ。もうひと工夫凝らせば、ホイットニー・ヒューストンのデビュー時みたいに、ポップ・チューンとバラードで鮮やかなコントラストが描けたのに…。もっともメリサの場合はイメ・チェン絡みだから、思い切りが必要だったのかもしれないが…。そういえば、本作が出た85年は、まさにホイットニー・デビューの年だった。

そのあたりのメリサ、レーベルの逡巡が、未発表曲やシングルB面曲、MCA期のサントラ提供曲などを集成した拡大版disc-2に刻まれている。シングルの別ヴァージョンも数多く収められているが、それを飛ばしてしまえば、メリサ本来の魅力が よりダイレクトに伝わってくるだろう。とりわけ終盤4曲のサントラ・チューンは、アル・ジャロウとデュエットしている<The Music Of Goodbye(Love Theme from OUT OF AFRICA")> を筆頭にどれも魅力充分で。そういや彼女は、山下達郎の数少ないデュエット・パートナーでもあったのだ。

本作後に第一線から退いたのは、レーベルの都合に加えて、メリサの私的事情があったためらしい。でもその背景には、自分のやりたいことができない状況に失望したメリサが、しばらく充電期間を置くことにしたからかもしれないな。