bill wolfer

シャラマーやウィスパーズ、レイクサイド、ミッドナイト・スターにクライマックス、ベイビーフェイスがいたザ・ディール等など擁して70年代終盤〜80年代に人気を博した Sound Of Los Angels Records こと SOLAR レーベル。日本では定期的にディストリビュートが移り変わり、カナザワもかつて代表作数点の紙ジャケ再発を監修したことがあるが、今はウルトラ・ヴァイブ/ソリッドがソーラーの国内販売権を握り、新たに SOLAR RECORDS / OCTAVE-LAB というレーベルを立ち上げて、大掛かりなリイシュー・プロジェクトに乗り出している。これまでソーラー物は、カナダの Unidisc がかなり細かい復刻作業を進めていたものの、日本では少々手に入れづらかったので、アイテム次第で結構なニーズがあるのではないか? 来週にはその第2弾7枚がリイシューされる。

…というワケで、その7枚からカナザワに執筆依頼が回ってきたのが、ソーラー物でも一番AOR寄りのビル・ウルファー1st。正確にはソーラーの傍系レーベル:Constellation から、82年にリリースされた作品である。今となっては「ビル・ウルファーって誰?」ってモンだろうが、元々はスティーヴィー・ワンダー『THE SECRET LIFE OF PLANTS』(79年)や『HOTTER THAN JULY』(80年)に貢献した白人鍵盤奏者/シンセサイザー・プログラマー。本作からテンプテーションズの名曲をロボ声ならぬヴォコーダーで歌った<Papa Was A Rolling Stone>をスマッシュ・ヒット(R&Bチャート47位)させ、その後84年に大ヒットした映画『FOOTLOOSE』のサントラ盤で、シャラマー<Dancing In The Sheets>(全米17位)をプロデュースして注目を浴びている。

本作でソロ・デビューした時は28歳だったビルは、出身地にあるワイオミング大学と名門バークリー音楽院で正規音楽教育を受けた秀才肌。スティーヴィー門下にいたのはわずか2年ほどらしいが、ちょうど電子楽器が恐るべき勢いで進化していた時期であり、スティーヴィーの下にいたことで、あらゆる最新機材のプロト・タイプや開発中のエレクトロニクスを優先的に試用できた。スティーヴィーの選任プログラマーというと、TONTOを開発したマルコム・セシル&ロバート・マーゴレフが有名だが、その後を継いだのがビル。そんな特殊な環境にいたことが、本作誕生の背景にある。でも前任たちがエンジニアだったのに対し、ビルは鍵盤奏者なので、双方のプロジェクトの内容はまるで違うワケだ。

本作が83年に日本発売された時のタイトルは、『デジタルな夜』。アートワークのネオン管が如何にもそれ風だけど、当時はまだコンピュータが音楽に本格使用される前で、MIDIは実用化されていなかった。初期サンプラーのイミュレイターは存在したが、シンセサイザーは手弾きのアナログ仕様。ミックスとマスタリングだけがデジタルだった。でもそのクール中に、ほんのり人間味を感じさせるあたりが、このアルバムの味だろう。

鍵盤奏者のリーダー作ということで、シンガーにはゲストを呼んでいる。一人は、翌年モータウンからアル・マッケイ(元アース・ウインド&ファイアー)のプロデュースでデビューするフィニス・ヘンダーソン。コメディアン志望の彼は、スティーヴィーのバックアップで歌手デビューに至ったから、本作はその前哨戦だったかもしれない。そしてもう一人、新人ジョン・ギブソンが大フィーチャーされている。彼は83年にビル制作『STANDING ON THE ONE』でソロ・デビューするが、その後ゴスペルに転向し、コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)のフィールドで長く歌い続けている。とりわけスティーヴィーの生き写しのようなヴォーカルが印象的で、ジョン・ヴァレンティやボビー・コールドウェル以上の “白いスティーヴィー” ぶりだ。

実際スティーヴィーもビルの独立に華を添え、<Soaing>でエモーショナルなハーモニカを吹いている。長年スティーヴィーのバンドでプレイしていた重鎮ネイザン・ワッツ(b)の名もアリ。オマケにバック・ヴォーカルにはマイケル・ジャクソンが参加していて。ビルは『THRILLER』や、ライヴ盤になったジャクゾンズの81年の全米ツアーのメンバーだったから、この流れは納得できる。そうそう、本作の人気曲<Call Me>は、フィニスのデビュー盤にも別テイクで収録されているので、耳馴染みの人も多いだろう。

ちなみにこの盤、02年にもUKで組まれた『THE BEST OF BILL WOLFER - CALL ME』にアルバム丸ごと収録されていたが、今回のリイシューは何とボーナス曲がテンコ盛り。カセットのみの発売に止まった幻の2nd『THE HARD WAY』(84年)を、そっくりボーナス収録しているのだ。これは Unidiscからの再発盤には入っていたものの、当然ながら日本では初登場である。ジミ・ヘンドリックスのカヴァー<Little Miss Lover>のように、メタリックなギターが炸裂するロック・チューンもあったりするが、これはビルがニュー・ウェイヴに傾倒していた当時のシャラマーや、プリンス・ファミリーのヴァニティを制作したことを考えれば納得。映画『FOOTLOOSE』の脚本やサントラ曲の歌詞を書いたディーン・ピッチフォードとの共作も収められている。

80年代後半以降は、アンビエント作品やアフロ・キューバン方向に進み、一線を退いている形のビル・ウルファー。 YMOが再評価されたり、クラフトワークが来日する今、デジタル・チックなアナログ・サウンドでヒューマニズムを感じさせるこの作風は、とても貴重なモノのように思えるのだが…。