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世界的ドラマーとなった神保彰が、毎年の年始めに2枚セットでアルバムを同時発売するようになったのが、2012年から。最初はオリジナル新作とカヴァー・アルバムの組み合わせだったのに、6年目の17年はソロ作とブロンボ(超絶技巧ベーシスト:ブライアン・ブロンバーグとの双頭ユニット)の3作目になり、その翌年はラテン・フュージョンの『22 SOUTH BOUND』とスムーズ・ジャズ『23 WEST BOUND』という対比型に進化した。そして今年もそのスタイルを受け継いで、『24TH STREET NY DUO』と『25 TH AVENUE LA TRIO』の2作をリリース。元旦発売だったのに、ご紹介が遅くなってしまった。

さて、神保サン。14年発表『CROSSOVER THE WORLD』を自己紹介するときに、こんな言葉を使っている。
「70年代クロスオーヴァーが僕のルーツ。フュージョンという言葉よりも自由度が高いイメージ」

これはカナザワの感覚と非常に近く、今も人気の和製フュージョン・グループたちは、この “フュージョン” という言葉に絡め取られ、雁字搦めになってツマラなくなっている。プログレがジャンル化して全然プログレスしなくなったように、フュージョンも新たな融合がなく形骸化した。そこに長くいる往年のファンは居心地が良いだろうが、それでは明るい未来がないし、演ってる側も “お仕事” になってしまう。安定と進化のバランスこそ、アーティストが人気を保つ秘訣。神保サンの2作品セット・リリースは、それを分かりやすくパッケージにしたものだ。

概略としては、『24』がウィル・リーとのデュオで、『25』はすっかり付き合いの長くなったエイブラハム・ラボリエル(b)と前回から参加のラッセル・フェランテ(kyd / イエロージャケッツ)と組んだトリオ作品。安心して和めるのは、シャカタクっぽい<Reasons>で始まる『25』で、まさにアチラのスムーズ・ジャズ・ステーションから流れてきそうなナンバーで固められている。2曲でトランペット/フリューゲル・ホーンを客演するのは、その筋の人気プレイヤー:リック・ブラウン。こうしたメロディ重視の作品には、神保のソングライターとしての才能が如実に表れる。

対してタイトゥン・アップなファンク・フューン<Groove Mission>で幕を開ける『24』は、アグレッシヴな攻めのアルバム。同期やプログラムを駆使しているが、プレイ自体は完全に神保とウィルの2人だけで構築している。ここのところのウィルは、本国でずーっと続けているビートルズのコピー・バンドに加えて、矢野顕子や桑原あいのバンドでも準レギュラー的に活躍していて、以前よりも芸風を広げている印象があるが、それでもこのアルバムほど攻撃的に弾きまくっているアルバムはなく…。しかも楽曲によっては、ドラスティックなエフェクト処理を施していて、セッションマンとしてのウィルとは別の、アイディア豊富なベース・スタイルを披露している。それをウィルから引き出した神保サンはサスガだが、ここは是非、ウィル・リー好きに聴いてほしい。最近 頭デッカチになっている気がするマーカス・ミラーのケツに火を点ける事になったら、それこそ面白いんだけどな。

なおこの『24』は、実際は『25』のL.A.録音後に完成したとのこと。それなのに順番を入れ替え、敢えて『24』としたのは、やはり神保サン自身がウィル・リーの大ファンだから。皆さんもフュージョン好きなら、すぐにピ〜ンと来ますよね?

それにしても神保サン、この2枚同発を丸7年続けているのは、並大抵ではできない。しかも彼は同時にカシオペア3rdのメンバーでもあり、ワンマン・オーケストラやドラム・クリニックで世界中を飛び回っている。それでいてクレヴァーさを失わず、飄々と活動を続けているのだから、まさに超人と呼ぶしかないな。