grammy 2019

第61回グラミー賞授賞式@L.A. ステイプルズ・センターからの衛星中継を見た。主要4部門のウィナーは以下の通り。
 年間最優秀アルバム:ケイシー・マスグレイヴス『Golden Hour』
 年間最優秀レコード:チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』
 年間最優秀楽曲:チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』
 最優秀新人賞:デュア・リパ
そのほか、カナザワが気になっていたのは、この辺り。
●Best R&B Album:H.E.R. - H.E.R.
●Best Pop Duo/Group Performance:Lady Gaga and Bradley Cooper - Shallow
●Best Rock Album:Greta Van Fleet - From the Fires
●Producer of the Year:Pharrell Williams
ぶっちゃけ主要4部門に馴染みのある名はない。チャイルディッシュ・ガンビーノは、拳銃やマシンガンをぶっ放す殺戮シーンが衝撃的な<This Is America>のPVが話題になり、自分もそれを見て衝撃を受けたけれど、それ以上は追っ掛けていないし…。

もともと今回のグラミーは、最初から色々波乱含みだった。主要4部門のノミネート枠が5つから8つへと拡大されて喧々諤々。しかもラップやヒップホップ・アーティストのノミネートばかり目立ち、ロック・ポップス勢が隅へ追いやられた。これは現在のヒット・チャートを見れば、ある程度予測できることだが、最多8ノミネートのケンドリック・ラマー、7ノミネートのドレイク、それにチャイルディッシュ・ガンビーノが受賞式典でのパフォーマンスを拒否。そのうえアルバム・リリース直後で出演を確実視されていたアリアナ・グランデまでが、ステージの内容を巡るスレ違いから出演を辞退した。

辞退したラッパーたちの主張は、グラミーではヒップホップの人気スターでも主要部門に手が届かない、つまり自分たちが正当に評価されないことに不満を示したらしい。昨年のグラミーも、主要部門のノミネートがほとんど男性アーティストだったことから、女性軽視の批判を浴びた。そこでグラミーを主催する全米レコーディング・アカデミーは、ノミネート枠を拡大する一方、投票メンバーの増員、選出基準の見直しを敢行。増員された投票メンバーは、女性やカラード、39歳以下の若い会員が多数と伝えられる。近年の米ショウビズ界では、トランプ政権の反動もあってか、“多様性” が重視されているそう。中継の進行役ジョン・カビラも、コメントで盛んに“多様性” と言っていた。

そんなプロセスがあったからか、チャイルディッシュ・ガンビーノが主要2部門を受賞すると、すぐに黒人音楽誌やマニアの一部がSNS上で「祝・ラッパー初受賞!」と喜びを表明した。でも実は、そんなオメデタイことじゃないと思う。式典の冒頭、今回のホスト役を担ったアリシア・キーズがいきなりステージに呼び込んだのは、レディ・ガガ、ジェニファー・ロペス、ジェイダ・ピンケット・スミス(ウィル・スミス夫人)、そして何と前ファースト・レディのミシェル・オバマ だった。これは昨年の女性軽視批判への回答であると同時に、白人・黒人・ヒスパニックの融合を意味し、またオバマ夫人登場で、音楽業界のリベラル宣言を明確にした、と受け取れる。それを考えれば、あらゆる社会問題を問題視したメッセージ性の強いチャイルディッシュ・ガンビーノが賞を受けた意味が分かるはず。対してマルチ・ノミネートのケンドリック・ラマーやドレイクは、それぞれラップ系1部門ずつの受賞に留まっている。そこを指摘することなく、「ラッパー受賞、万歳!」と能天気に持ち上げてミスリードする おバカなメディアには、もはや存在価値はない。

ガンビーノの今回の受賞は、つまり、楽曲のメッセージ性の高さとガンビーノ個人に支持が集まったということ。聞けば彼は、今年いっぱいで音楽界からの引退を表明していて、その後は俳優ドナルド・グローヴァーとしての活動に一本化するそうだ。ラッパーとしてのポジションなど、彼には取るに足らぬモノなのである。なおガンビーノの<This Is America>は、最優秀ミュージック・ヴィデオにも選出されたが、それを監督した日本人映画監督/映画作家のヒロ・ムライは、アルファ・ミュージック創設者:村井邦彦のご子息である。

こうした一方で、ロック勢の退潮傾向が激しく、グレタ・ヴァン・フリートだけが気を吐いている状況(新人賞を取って欲しかった)。オープニング・アクトを飾ったラテン勢にもかつての熱気はないが、代わりにヒップホップ〜ダンス・ポップ勢の向こうを張ったのがカントリー勢だ。カントリーというと白人保守層の象徴みたいだけれど、それを排除しないのがリベラルの良きところ。最優秀アルバムを勝ち取ったケイシー・マスグレイヴスはカントリー系シンガー・ソングライターだが、実は同時にLGBTQのアイコンとして知られている。そう、彼女もまたリベラルのシンボルなのだ。

今日のパフォーマンスで個人的に印象に残ったのが、今年の “Musicares Person of the Yaer” に選出されたドリー・パートンと、お孫さん(10歳くらい?)のMCで登場したダイアナ・ロス。共に70歳代中盤ながら、容姿も歌声もさほど衰えず、会場をパッと華やがせる。ジェイローとスモーキー・ロビンソン、NEYOらが歌ったモータウン60周年のパフォーマンスにも心躍った。客席にはベリー・ゴーディ・Jr.はもちろん、ヴァレリー・シンプソンの姿も。そしてもちろん、アレサ・フランクリン・トリビュートのヨランダ・アダムス、ファンテイジア、アンドラ・デイの歌ヂカラも凄まじかった。

若手のパフォーマンスでは、新人賞の期待もあった H.E.R.が相当に素晴らしく…。同じブラック・ミュージックでも彼女の音楽は内省的かつソング・オリエンテッドで、今日のパフォーマンスもそれをストレートに表現。シンプルかつミニマムなフォーマットで曲が始まり、リズム隊が入って、ストリングスが入って、クワイア風のハーモニーが付いて…と、徐々にスケール・アップしていく。そして最後はH.E.R.自身のロッキンなギター・ソロが炸裂。ちょうど日本だけでCD化されたデビュー作(アルバムじゃなくてEPよ、と強調。USでは配信とアナログ発売のみ)を聴いたばかりだったので、このステージにはグッと来た。

それと、ビヨンセのレーベルからデビューした姉妹デュオ:クロエ&ハリー<Where Is The Love?>のソリッドさにも 曲はもちろん、この日功労賞を受けたダニー・ハサウェイとロバータ・フラックのデュエット。客席には自身がノミネートされていたレイラ・ハサウェイもいて…。ある意味 H.E.R.にも通じる、トコトン音を削り落としたアレンジで、鋼のように研ぎ澄ました異相のヴォーカル・ハーモニーを聴かせる。ヒップホップやダンス・ポップには興味が湧かないカナザワも、名曲解釈に波紋を投げるようなスタイルに思わず反応。これから要チェックしたい姉妹デュオだ。

チャートで活躍したヒップホップやダンス・ポップ勢が台頭し、それがノミネートに大きく反映されたグラミーだったが、実際に終わってみれば、主要部門は商業性よりも社会的、文化的メッセージを強く持った楽曲、作品が立ち並ぶ結果に。出演を辞退したラッパーたちの主張は、分断が進む米国社会のためにならないことを教える結果になった。日本ではガガの<Shallow>のスウィープに期待する声も出ていたが、それも今回のグラミーの意義にはそぐわなかった。結果、主要部門は分散したものの、社会的・文化的側面から見れば、多様化を謳ったアカデミーのアピールを貫いたワケで、間もなく任期を終える会長ニール・ポートナウが言う「世の中をひとつにする音楽のチカラ」を推し進めた形で終わったと思う。

対して日本のエンタメ界。そこはずーっと政治や社会的問題から目を背けていて、拝金主義と無責任体質がはびこっている。今回、韓国の男性アイドル・グループ:BTSがプレゼンターに立ったが、学芸会ノリのジャリタレばかり送り出している日本勢には、到底行き着けないポジションだろう。今の日本の音楽界に必要なのは、かつての尾崎豊的カリスマに違いない。