supremes_jimmy webb

モータウン60周年の廉価リイシューから、取り急ぎもう1枚だけピックアップ。ダイアナ・ロス脱退後のシュープリームスが、試行錯誤の中でジミー・ウェッブと手を組んで作り上げた72年の隠れ好作が初CD化されている。ソウル・ファン、R&B 好きからは ほぼスルーされてしまうアルバムだけど、視点を転換すると、まるで違った評価になる典型的作品である。

メンバーは唯一のオリジナルであるメアリー・ウィルソン、ダイアナと入れ替わりで加入したジーン・テレル、そして本作直前に参加したらしいリンダ・ローレンスの3人。ダイアナ後の5作目、この頃よくジョイントしていたフォー・トップスとの共演作を含むと8作目にあたるが、R&Bアルバムのチャートではジリジリ後退を強いられている感は否めず、思い切って白人マーケットへアプローチを仕掛けたチャレンジ作だったと言える。

とはいえ、ジミー・ウェッブとは初顔合わせではなく、65年に<My Christmas Tree>を書いてもらっている。これは当時駆け出しソングライターだったウェッブにとって、初めて印税をもらった記念すべき楽曲だったとか。故にダイアナ不在とはいえ、再びシュープリームスからお声が掛かったことは、ウェッブにとって光栄なコトだったに違いない。全11曲中10曲が、アルバム・タイトル通りウェッブのアレンジ&プロデュース。そしてそのうち6曲がウェッブ自身の書き下ろしである。残る4曲は、ボビー・ルイスの61年のNo.1ヒット<Tosin' And Turnin'>、ディオンヌ・ワーウィックが68年のサンレモ音楽祭で歌ったイタリアの歌曲<恋のささやき(Silent Voices)>、それにジョニ・ミッチェル<All I Want>とニルソン<Paradise>のカヴァーだ。このウェッブ制作曲に関しては、まるでミュージカルのサウンドトラックのような、アルバム・トータルで勝負する作り。タイトルからしてそうだが、ダイアナ時代のようなポップさではなく、この2組のコラボならではの、ミディアム〜スロウを中心に据えたジックリ聴いて味わう作りとなっている。

72年というと、ウェッブのソロ作ではリプリーズでの3作目『LETTERS』と同時期。エンジニアにヘンリー・ルーイ、ウェッブのピアノにフレッド・タケットのギター、レイ・リッチのドラム、スキップ・モシャーのベースという布陣もまったく同じだ。<Once In The Morning>ではウェッブとジーン・テレルとのデュエットもあって、ウェッブ・ファンは思わずニンマリ。だから従来のシュプリームス・ファンではなく、むしろウェッブ方面のアメリカン・ポップス〜ソフト・ロック好きに訴求する内容と言える。アート・ガーファンクルやリンダ・ロンシュタットみたいに、ウェッブ楽曲でほぼ固めた sings Jimmy Webb 的なアルバムが作られるほどシンパの多いソングライターだから、このアルバムもそこに連ねるのが正解かもしれない。

でもそんな中、唯一ウェッブが関わっていないのが、スターターである<甘い失恋(I Guess I'll Miss The Man)>である。ジーン・ペイジが編曲に関わったこの<甘い失恋>こそが、実は正真正銘ブロードウェイ・ミュージカル『PIPPIN』の挿入歌のカヴァーだ。元々『PIPPIN』は、モータウンがオリジナル・キャストのサウンドトラック・アルバムを出していたミュージカル作品で、そちらでは女優ジル・クレイバーがこの曲を歌っている。もしかすると、それをシュープリームスに歌わせようというモータウン首脳のアイディアが先にあり、それをアルバム・サイズに発展させる意図でウェッブに制作依頼が廻ったのかもしれない。現に本作からのシングル・カットはこの曲だけ。しかもR&Bチャートではなく、ポップ・チャート86位のスマッシュ・ヒットを記録している。ハーモニーは素晴らしいが、ダイアナのような魅力的個性に乏しい新生シュープリームスだったから、こうしたポップ・シーンへの積極アプローチは、将来へ向けての価値あるトライアルだった。

その後もシュープリームスはシェリー・ペインやスザイー・グリーンなどメンバー交代を繰り返し、77年に解散。ついぞ大ヒットには恵まれなかったが、マッスル・ショールズのテリー・ウッドフォード&クレイトン・アイヴィー(AORファンにはロバート・バーン周辺でお馴染み)や、コモドアーズ〜ライオネル・リッチーの参謀ジェイムス・アンソニー・カーマイケルと絡むなど、洗練度を高めたシティ・ソウルを創っている。その意味では、70年代中盤以降の作は、ダイアナ時代とは違った楽しみ方ができるはず。…というより、ある世代のファンには間違いなくこの時期の方が面白く聴けるだろう。未CD化作品が多くもあるが、アナログで探すのもまた一興よ。