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伊勢正三、実に16年ぶりとなる全曲新曲によるオリジナル・ニュー・アルバム『Re-born』を聴いた。当ブログの常連なら、正やんが かぐや姫やフォークの枠に捉われず、風の後期からAORやシティポップ表現に取り組んでいたことをご承知のはず。5年前には そちら系の楽曲だけをコンパイルした『Light Mellow 伊勢正三』を作って、ソロ時代の正やんファンから賞賛を戴いたものの、それで<22才の別れ>や<なごり雪>のパブリック・イメージを払拭できるはずもなく…。でも『Re-born』なるタイトルにはきっと、その辺の気持ちも詰め込まれているのだろうな…。

アルバムは正やん自身のセルフ・プロデュース。収録曲もすべて彼の詞曲で、アレンジにも積極的に取り組んでいる。だから正やんの演りたいことがストレートに表れていると思われ、AORやボサノヴァ、メロウ・フォークなどがたっぷり。ラップを演っているのは驚いたが、ビートにライムを乗せていくヒップホップ・スタイルではなく、少しだけリズムを意識した語り、という印象だ。

正やんはギターだけでなく、ベースや鍵盤、一部のプログラミングなどでも活躍。楽曲によってアレンジも手掛ける森一美(kyd)、センチメンタル・シティ・ロマンスの細井豊(kyd)、野口明彦(ds)らがサポートしている。ゆる〜いメロウ・グルーヴなんかもあったりして、正やんソロを知る人なら素直に楽しめるだろう。ただし、寄る年波に押されてしまったか歌声にノビがなく、一枚ヴェールを掛けたような音質も今イチで…。くぐもった音は当然のこと正やんのディレクションによるのだろうが、これが今ドキの空気感にフィットしてなくて、少々古臭く感じてしまった。とりわけマイナー・フォーク調の楽曲に重なると、かなり沁みッタレた世界に陥ってしまって…。一緒に歳を重ねたロートル・ファン対策であろうことは分かるが、これを演らずに済ませる免罪符としての『Re-bone』なのではなかったのか? せっかくラップもどきで冒険するなら、そういう過去の遺産はスッパリ切るべき。真のファンなら、きっと現在進行形の正やんを支持するハズである。かぐや姫や風の初期が好きなら、カタログを聴けばイイのだ。

そうした意味で、今の正やんを後押ししてくれる良き理解者、第三者的ポジションからアドヴァイスをくれるプロデューサー的人物が他にいたなら、『Re-bone』のタイトルにふさわしい、もっと吹っ切れたニュー・アルバムができたのではないか。こうして純新作が出ること自体が素晴らしいが、新規リスナーへのアピールを目指すなら、もう一歩ツッ込んだ方が好ましい作品になったと思うな。