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令和になって最初のポストは、コソッと発売されたジョージ・ベンソンのニュー・アルバム『WALKING TO NEW ORLEANS 〜 Remembering Chuck Berry And Fats Domino』。コイツがどえりゃーご機嫌なデキだ。ベンソンの新作は13年の『INSPIRATION - A Tribute To Nat King Cole』以来6年ぶり、となる。

内容的には、タイトルにある通りのチャック・ベリー、ファッツ・ドミノのカヴァー集。でもベンソンがこの2人の楽曲をカヴァーするとは、誰が想像しただろう。「私は彼らが作った音楽をとても高く評価しています。チャック・ベリーは素晴らしいショーマンであり、素晴らしいミュージシャン。ファッツ・ドミノは次々にヒットを飛ばした才人でした」

前作に当たるナット・キング・コールへのトリビュートは、ベンソンのヴォーカルの指向性を考えれば、さもありなん。でもギタリストとしてのベンソンのルーツはジャズで、とりわけウェス・モンゴメリーに影響されたことは誰もが知っている。それなのに何故にアメリカン・ルーツのチャック・ベリーとファッツ・ドミノ? しかもファッツ・ドミノはニュー・オーリンズ所縁の人だが、チャックはあんまり関係はない。そこはまぁ謎だが、7歳でウクレレを弾き始め、8歳でギターを持って週末のナイト・クラブに潜り込んでいた早熟ベンソン君である。もしかしたらジャズに目覚める前のガキんちょ時代、音楽に目覚めた原初の頃に親しんだルーツ中のルーツなのかもしれない。

そう思うのは、ココにいるベンソンがメチャクチャ楽しそうだから。ナット・キング・コールの時のように蝶ネクタイで気取ったりせず、足をガッと踏み込んで息を詰めてギターを弾きまくる、そんな姿がアートワークになっている。歌声も素のまま自然体で、オープニング<Nadine>からいきなり軽くシャウトしちゃったりして、元気ハツラツ とにかくリラックスした中にも気合いが入っていて、こんなベンソン、今まで聴いたことがなかった。『BREEZIN'』以前、イヤ更にその前、CTI以前以来かも。見てくれの形を作ってない分、彼のワクワク感がダイレクトに伝わってくる。最近でいうと、来日が直近に迫ったボズ・スキャッグスがブルース回帰した時の『MEMPHIS』に近い感覚かも。

ベーシック・レコーディングはナッシュヴィル。レーベルも90年代後半から住み馴れたユニバーサル系列(GRP〜ヴァーヴ〜コンコード)を離れ、ジョー・ボナマッサやロベン・フォード、ガヴァメント・ミュール/ウォーレン・ヘイズ、ロバート・クレイらが籍を置くブルース系レーベルProvogueへ移籍した。エグゼクティヴ・プロデューサーがベンソン自身だから、きっとメジャー・レーベルの方針に捉われずに自分の演りたいことをやる、そういうスタンスを取ったのではないか。そういえば、本作のプロデューサー兼エンジニアのケヴィン・シャーリーは、ジョー・ボナマッサのブレーン。ドラムのグレッグ・モローはシェリル・クロウ、ドン・ヘンリー、シンディ・ローパー、レオン・ラッセル、ボブ・シーガーなど、ルーツ寄りロック・アルバムでよく叩いている。サイド・ギターのロブ・マクネリーとピアノのケヴィン・マッケンドリーは、バディ・ガイ最新作でも一緒にプレイ。名はな苦とも、作品の内容に見合った実務派ミュージシャンを集めたワケだ。一方ホーン・アレンジのリー・ソーンバーグ、オーケスラ・アレンジでジェフ・ボヴァの名があるのは、従来ファンが安心するところ。ジョン・レノンも歌ってた<Ain't That A Shame>とか、まじサイコーよ。

若手ツームと組んでハウス・アルバムを作ったチャカ・カーンは、声は絶好調なのに、マトモに歌を歌わせてもらえてなくて残念だった。最前線のR&B好きには好評でも、カナザワには、何を演りたいのか彼女自身が分かっていないように見えた。でもベンソンはフロントラインに立つより、自分の思いに忠実であろうとしている。そのツケで、残念ながら現時点では日本リリースの予定はないようだけど、それを超越してシッカリ伝わってくるモノがあるのだな。

令和の時代のスタートに、イイもの聴かせていただきました。