rockie lee_kicks

どうにも謎なアートワークに包まれた、リッキー・リー・ジョーンズ最新作。40周年目にして5枚目のカヴァー・アルバムだ。つい先日の来日公演は諸事情で見逃してしまったけれど、後から後から「良かったよォ〜」という声が届いて、ちょっぴり後悔。本気で観に行こうと思えば調整可能だったけれど、正直「万象繰り合わせても観たい!」というほどの根性はなかった。もう7〜8年前になるか、やはり来日時に取材を依頼されてたのだが、当日現場まで行ってしばらく待たされた挙句、結局キャンセル。そういうムラっ気のある女性なのは分かっていたので、怒りは湧かなかったものの、緊張していた分ドッと疲れたのは確かで…。その時に観たライヴもちょっとダレ気味で、あまり良い印象はなかった。それを引きずっているつもりはなかったのだが…

でも今回は、このアルバム制作にしろ、その後のツアーにしろ、リッキー自身が楽しんで演っているらしく。現在ニューオリンズに住んでいる彼女は、そこで知り合ったヴァイブ奏者/マルチ・プレイヤーのマーク・ディロンと意気投合。そのディロンのプロデュースでこの『KICKS』を完成させ、そこにギタリストを加えたトリオ編成でツアーを行なっている。セット・リストも冒頭の3〜4曲を決めているだけで、あとはその日のオーディエンスの反応を見ながら、自由自在にステージを進めていくそうだ。お互いの理解度が深くないと、到底できない芸当である。

カヴァーに選ばれたのは、エルトン・ジョン<My Father’s Gun>、アメリカ<Lonely Peple>、スティーヴ・ミラー・バンド<Quicksilver Girl>といったポップ・ロック・クラシックに、ジャズ・スタンダード<Mack The Knife>、キャブ・キャロウェイで有名な<Nagasaki>にカントリーのスキータ・デイヴィスで知られる<The End Of The World>など、いずれもリッキーが子供の頃から親しんできた曲ばかりだ。そのスタンスは、少し前に拙解説で紙ジャケ化された最初のカヴァー・アルバム『GIRL AT HER VOLCANO(マイ・ファニー・ヴァレンタイン)』(83年)から、まったく変わっていない。今回も歌いたい曲が自然に集まり、十数曲をレコーディング。そこから10曲に絞られた。

でもその中で、リッキーが最初からカヴァーしたいと決めていた楽曲があった。アルバム冒頭の<Bad Company>である。あのフリーの後継バンド、ポール・ロジャース率いるバッド・カンパニーのテーマ曲のようなナンバー。そして何より、カナザワが今作で一番ココロを鷲掴みにされたのが、この曲だった。彼女がこうしたブリティッシュ・ハード・ロックのカヴァーを演るなんて、ファンにとっては青天の霹靂みたいなモンだろう。でもオリジナルにも思い入れがあるカナザワは、その意表を突く感じがツボった。攻撃なギターもイイ感じだし。

それでいて、アルバムにはリッキーらしさがタップリ。近作にはダークでヘヴィーなアルバムもあって、それはちょっと苦手だったけれど、今回は軽めのタッチで歌う喜びが感じられる。初期の頃のような瑞々しさはないけれど、ジョニ・ミッチェルが歌えなくなってしまった今、リッキーには元気に歌い続けてもらわねば。