zenito

竹内まりや<Plastic Love>が Youtubeで世界的注目を浴び、何と2500再生を記録したことは、今や有名な逸話。でも実際の再生回数はともかく、それに似た現象はアチコチで湧き起こっている。オーストリアで80年代に活動していたゼニートも、そうして再評価の俎上に乗ったグループ。帯キャッチには、“極上ライトメロウ meets ニュー・エイジ〜バレアリックな至宝盤” とある。でもヲイ、カナザワは、なぁ〜んにも聞かされてネェ〜ぞ そもそもこの形容からは音が見えてこないんじゃないか…

このゼニートは、オーストリアで76年に結成されたフュージョン・ユニット。ハンス・トライバー(kyd, Main Songwriter)とウィリー・ランガー(b)を中心に、初期はカルテットで活動していたそうだ。82〜83年に2枚のインスト・アルバムをリリース。86年に新興レーベル Sprayから出した激レア3rdが、この『STRAIGHT AHEAD』になる。影響を受けたのは、ウェザー・リポートを筆頭に、リターン・トゥ・フォーエヴァー、ハービー・ハンコック、ジョージ・ベンソン、ジョージ・デューク、アル・ジャロウ、デヴィット・サンボーンにアース・ウインド&ファイアー等など。騒がれたキッカケは、本作ラストに収録された<Waiting>が14年にYouTubeにアップされ、ジワジワ注目を集めたこと。それを機に、元から激レアだったアナログ盤はまさに高嶺の花となり、結果18年にアナログ再発。今年4月末に発売されたこの日本盤が、世界初CD化になる。

前述通り、“極上ライトメロウ meets ニュー・エイジ〜バレアリック” と今ドキのコトバで飾られているが、80's的センスで簡単に表現すると、ズバリ、これってブリティッシュ・ジャズ・ファンクぢゃん

もちろん欧州産なのでブリティッシュじゃあないのだが、ベース・フィーチャーの楽曲は ほぼほぼレヴェル42 のようだし、女性ヴォーカルを立てた楽曲は、ジル・セイワード加入後のシャカタクを思わせる。デビュー当時のインコグニート、アイスランドのメゾフォルテ、日本で言えばカシオペアも、似たような音楽スタイル。ここからテクノ仕様にシフトしたのがラー・バンド。<I.O.U.>で有名なFREEEZは、デビュー時のファンク・バンド・スタイルからテクノへと急旋回していった。そんなエッセンスもゼニートは孕んでいる。

彼らが名を上げるキッカケになった<Waiting>は、そうしたタイプの打ち込み系ゆったりミディアム・ファンク。ヴェイパーウェイヴ世代には、ラー・バンドにも通じるこの音作りに反応するのだろう。でもカナザワの感性では、むしろ他の楽曲の方が遥かにカッコ良く感じるな。キャッチーな<Colours In My Head>や、サビでチラリと歌が出てくる<Come On And Try>なんて、ホント、シャカタク好きなら秒殺間違いナシ。インストではカシオペア風の<Deperture 03>に悶絶させられる。ラテン・フィールの<Magic Waves>は、アル・ジャロウ版<Spain>を意識したかな?

6曲でフィーチャーされる女性シンガーは、米ジャズ・ギタリスト:ソニー・シャーロックの奥様リンダ。彼女の涼しげな歌声は、このアルバムの大きな魅力になっている。旦那はフリー・ジャズ系なので、こうしたところに奥方が参加するのは解せないのだが、ココはリンダの起用を決めたレーベル・オーナー兼マネージャー氏の英断を褒めるべきだろう。シャカタクがヴォーカルをフィーチャーしてダンス・ポップ路線に舵を切ったのに感化されてか、この時期はレヴェル42、メゾフォルテ、カシオペアらも一斉にヴォーカルを前面に押し出すようになった。おそらくそれに倣ってのコトだと思うが、この声の発見がゼニートの音楽的成功を導き出したのは間違いない。仮にメジャー・レーベルの発信だったら、当時の日本でもアルバムが出たのではないかな?

こうした音が YouTube世代に再評価されるには、ヴェイパーウェイヴを通過した耳と感性が必要なのだろう。でもことオヤジ世代に限っては、ストレートに80年代感覚を呼び起こすだけ。ヨット・ロック同様、「ヴェイパーウェイヴってナニ?」ってなモノである。解説ではシャカタクもレヴェル 42もカシオペアも一切登場しないけれど、それはオールド・スクールに見せない意図からか。でもフィジカルのマーケットは、今やこの世代が頼り。そこは直球勝負すべきではないだろうか? 某音専誌レビューでは、T-スクエアと並べられていて、それは違う!と思ったけれど(T-スクエアはファンク要素が薄い)、ココではまっすぐ、ブリット・ジャズ・ファンク好きやカシオペア好きにこそ、オススメしたい。まずは以下でご視聴をば。