do away

ご縁あってカナザワが微力ながら活動をサポートしている今井優子。彼女が90年にリリースした、角松敏生プロデュースのアルバム『DO AWAY』が、ボーナス・トラック入りでリイシューされた。当時の今井はデビュー3年目、アルバムとしては通算5枚目に当たる。しかし角松との出会いによって曲作りに目覚めたり、シンガーとしてもひと皮剝けるなど、現在の彼女の原点とも言える重要な作。今回のリイシューは、企画・販売のタワーレコード専売となる。


オーヴァーチュアに導かれるのは、吉田美奈子のカヴァー<愛の彼方>。美奈子楽曲はそれ相応の歌唱スキルを要求されるうえ、空間を埋め尽くす角松のサウンドメイクが、そのハードルを更に高くしている。でも今井のヴォーカルは、その音壁に全然負けていない。元々、故・平尾昌晃に発掘されて突如デビューした人だけに、天性の歌の上手さを持っていたワケだが(幼少の頃はヘタだったらしい…)、角松の熱血指導により、一歩踏み込んだ表現力の豊かさを身につけたのだろう。美奈子さんは自分の曲を自由にカヴァーさせるワケじゃなく、相手を選んでOKを出す。当時一緒に仕事をしていた角松といえども、それは同じはず。だから彼女は美奈子さんからもお墨付きを得た、と言ってイイだろう。

シングル曲でもあった<さよならを言わせて>は、角松提供曲。マニピュレイト以外はすべて角松自身のプログラムで、その重厚さはとてもシングル楽曲とは思えない …とはいえ角松自身も、自分が関わった女唄ばかりを集めたリメイク集『THE GENTLE SEX』で取り上げているから、結構お気に入りなのだと思う。

それと同じ流れにある角松楽曲が<Snow Train>と<Unchangable Life>だ。共に角松節全開のミディアム系アーバン・ファンク。基本リズムは打ち込みで、そこにギター、ベース、サックスなどの生楽器を加えている。角松作品で言えば『REASONS FOR THOUSAND LOVERS』とライヴ盤『'89.8.26. MORE DESIRE』、2枚目のギター・インスト『LEGACY OF YOU』と進んでいく時期。制作モノならノブ・ケインや青木智仁『DOUBLE FACE』の頃だから、打ち込みとヒューマン・プレイを有機的に組み合わせたフォーマットを模索していたのだろう。<さよならを言わせて>より音数が少ない分、今井のヴォーカルが伸びやかに聴こえる。

その傾向が一段と強くなるのが、角松作詞・青木智仁作曲による<By The Side Of Love>、角松作詞・浅野ブッチャー祥之作曲の<Eye Opener...>だ。前者はゆったりしたメロディの好ミディアム・スロウで、今 剛の繊細なギター・ソロも印象的。木戸やすひろ/比山貴咏史/広谷順子という職人コーラス・チームの起用も、角松作品には珍しい。後者はブッチャーさんらしくヒネリが効いたポップ・ミディアム。フランジャーを効かせた青木ベースも、ブッチャーさんのアイディアかな? 角松カラーに染まる楽曲が多い中で、良いアクセント、一種の清涼剤のような役割を果たしている。こ好曲たちを書いてくれた青木・浅野両人が揃って鬼籍に入っているなんて、ちょっと信じ難いところだ。

さて、残る楽曲は、角松が得意とするバラード群である。<Mistress>は今井の最新作『IT'S MY TIME TO SHINE』でもリレコされた楽曲で、聴き比べると、今井のヴォーカリストとしての成長が伝わるだろう。角松のヴォーカル・ディレクションの厳しさを肌で知る彼女だから、ニュー・ヴァージョンの歌入れには若干ビビっていたけれど、実際は意外とスンナリ終了。今井もそれだけ経験を積んで、より良い歌を歌うようになった証かな。少々内省を孕んだ<Phuket's Tears>には、<OKINAWA>に通じるアジアン・テイストがホンノリ。

でもココでの白眉は、やはり<Airport>なのは疑いない。JADOES の仕掛け人で、一時は “歌う放送作家” と異名をとった植竹公和と角松が作曲、今井優子自身が作詞を手掛けた名曲。それこそ角松自身のバラード群にも匹敵する感動的ナンバーで、想い溢れるヴォーカルもエクセレント。本来ならアルバムのエピローグを飾るべきクオリティだが、それを敢えて中盤に持ってきて(アナログ時代なら差し詰めA面ラストといったところ)、ラストを<Phuket's Tears>と<Airport〜reprise>で締め括ったあたりもワザありと言える。

参加ミュージシャンは、前述の青木(b)、浅野/梶原順(g)、小林信吾(kyd)、小池修(sax)といった当時の角松ファミリー総動員。更に村上ポンタ秀一(dr)、斉藤ノブ(perc)、今剛/鈴木茂(g)、難波正司(kyd)、向井滋春(tb)、数原晋(tr)とベテラン勢が多いのも、その頃の角松の指向が反映された。全キャリア通じてミュージシャン人脈に恵まれている今井ながら、この豪華ラインナップは屈指のモノだろう。

ボーナス4曲は、いずれも完成ヴァージョン・マイナス・ワンのオフ・ヴォーカル・トラック。でも角松楽曲をカラオケ・ボックスで歌おうとして、その節回し、ピッチの難しさを体感した人は少なくないはず。歌声のキラキラ感もあって、割とサラリと聴こえる今井のヴォーカルながら、実はクセが少ないだけで、歌ってみるとかなりハイ・スキルな歌い手であることが実感できる。新規リマスターで、音も今ドキのクオリティになった。

ちなみにアートワークは、2ndプレスから採用された、はにかみエディション。実は最初からコチラの写真をジャケットに使うはずだったそうだが、ちょっとした手違いで、おすましのエディションが世に出てしまったらしい。これは彼女自身、大いに溜飲を下げたコトだろう。

かくいうカナザワにとってもこのアルバムは、今井の歌をジックリ聴くようになったキッカケの作。『IT'S MY TIME TO SHINE』では何とか角松の参加をネジ込むことができたが、果たして次はどうなるやら…
ある時 角松と2人で「優子は今の方がイイよな〜」と意気投合したのは内緒です…

DO AWAY +4(タワーレコード限定)