p.frampton_all blues

チケットを買いそびれ、じゃ当日券で、と思っていたのに、仕事がドン詰まりになって結局見逃してしまったテデスキ・トラックス・バンド。ま、前回(前々回か?)観ているし、デレクはクラプトンと来た時にも観ているが、スーザン姐御はソロ時代からのご贔屓でもあるので、やっぱり残念。そんなタイミングで届いて、何となく癒された気分にさせてくれているのが、このピーター・フランプトンのご機嫌なブルース・カヴァー集だ。

ピーター・フランプトンといえば、我々世代は圧倒的に『FRAMPTON COMES ALIVE』の2枚組ライヴ盤(76年)であり、トーク・ボックスをメジャーにした<Show Me The Way>のヒットだった。アイドル顔した苦労人というイメージづけもあって、ライヴの前作『FRAMPTON』(ソロ4作目)』のジャケで、かつて在籍したハンブル・パイの相方スティーヴ・マリオットのTシャツを着ているあたりに、ピーターの複雑な心境を慮ったりしたな。

カナザワが彼の動向をチェックしていたのは、80年代半ばまで。当時既にお義理で聴くだけになっていたのだが、スティーヴ・ルカサーとジェフ・ポーカロの参加に釣られて聴いた81年作『BREAKING ALL THE RULES』がコトのほか良くて、しばし追いかけ続けてみた。でも結局は、その勢いは長続きせず…。ところが02年のマウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァルに突如来日。取材絡みでその時のステージを観て、かなりビックリ ピーターがすっかり調子を取り戻しているのを知ったのだった。それ以来、地味ながらもずーっと充実した活動ぶりで。このアルバムもリリースを知り、すぐにオーダーした次第である。

ジャケットにあしらわれているのは、オールド・ファンにはお馴染み、ピーターのトレードマークで、シグネイチャー・モデルも製造された3ピックアップの黒いレス・ポール。名義はソロではなく、“ピーター・フランプトン・バンド” となっている。実際レコーディングは、彼の最近のツアー・バンドとのセッション。ブルース・カヴァー集になったのは、「この2年、夏にスティーヴ・ミラー・バンドとツアーし、毎晩、何曲かブルースをプレイしていた。それが楽しかったので、自分のバンドとスタジオ・ライブをやってみようと思いついた」そうである。

選バレているのは、ウィリー・ディクソンやタジ・マハール、フレディ・キング、ドン・ニックスらのナンバー。比較的地味な楽曲を、丁寧に選りすぐった印象だ。しかも純然たるブルース・チューンばかりではなく、アルバム・タイトル曲はマイルス・デイヴィスのあの曲。そしてそこで共演しているのは、何とラリー・カールトンである。他に サニー・ランドレス、スティーヴ・モーズとのギター共演もあれば、キム・ウィルソンのハープをフィーチャーした楽曲もある。ゲストもシッカリ、この作品にふさわしい人を選んだのだろう。

カナザワがシビレたのは、インストに仕立てられた<Georgia On My Mind>。かつてジャンゴ・ラインハルトに影響されたと言い、デヴィッド・ボウイのツアーにギタリストとして参加した(実はハイスクールの同級生)ように、実は確かなテクニックを持ったギタリストなのだが、どうしてもロック・アーティストとして歌とセットで観られがちだった。でもココでは、なかなか流麗なギターを披露しており、ブルースへの淀みない愛情を表現している。例えば、手慣れてしまったクラプトンのブルースよりも、遥かに迸るパッションを感じるのだ。それはある意味、ローリング・ストーンズの最新スタジオ作にしてブルース・カヴァー集『BLUE AND LONESOME』に似た質感かもしれない。女性たちを虜にしたフワフワの巻き毛は、もうスッカリ禿げ上がってしまったけれど、この人の音楽にかける熱情は覚めることを知らない。

そんなピーター・フランプトンだが、今は筋力が徐々に低下する病気を患っていて、今年のツアー "Peter Frampton Finale" を最後に、ツアー活動から退くと発表している。その後は症状の進行次第で、短期のヨーロッパ・ツアーの計画もあるとか。できることならもう一度来日してもらって、動くピーター・フランプトンを瞼に焼き付けたい。