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フランスのポップ・マエストロ:ガエル・ベンヤミンのプロジェクトであるガイスターの新作が、我が Light Mellow Searches から7月3日にリリース済み。約2年前の前作『WITH ALL DUE RESPECT』は、若干サイケデリックな色合いの小難しさがあった気がするが、今回はよりポップな路線に回帰した感がある。カナザワはよくガエルをトッド・ラングレンになぞらえてきたが、今作に限ってはトッドというより、ゴドリー&クリームがいた頃の10CCのイメージ。もちろんビートルズやビーチ・ボーイズを彷彿させる瞬間は、アチコチに散りばめられているけれど。

それに加え、ブックレットに添えられたガエルからのコメントには、ギル・スコット・ヘロンが登場する。日本では馴染みが薄いが、“ジャズ・ファンクの吟遊詩人”とか“黒いボブ・ディラン”と謳われ、ストリート・カルチャーが盛んになってからは、“ラップの始祖”と神格化されるようになった御仁。11年に62歳で物故したが、都会的でメロウなジャズ・ファンクに社会的メッセージを乗せる手法は、現代のヒップホップ世代に強い影響を与えた。

「僕にとってのオールタイム・ヒーロー。ビートルズやスティーリー・ダンと並んでトップ5に入れたいほどで、人生で最も聴き込んだアーティストの一人だよ」

同時にヘロンには予言的センスも。その中に “革命はテレビでは放送されないだろう” という言葉があって、そこについてのステイトメントがこのアルバムのコンセプトに繋がっている。すなわち、革命はストリートで物理的に起こるもの。でも今日の世界はそれが逆になっていて、多くの政治的行動やアイデアはコンピュータや電話の向こうにいる少数によってオンラインで発生し、コントロールされている、というワケだ。

コレについては、参議院選まっただ中の日本社会も、いろいろ考えるべきだろう。例えば、ネットで話題沸騰の山本太郎率いる れいわ新撰組が、メジャーなメディアではほとんど無視されている事実。彼の言うことすべてに賛同するワケではないが、今の政界で最も熱を持っているのが山本太郎であるのは間違いなく、その勢いと知名度の高さを政界や古いメディアが恐れている。誰に入れるかはともかく現状に納得できないなら、まずは投票しに行こうよ。

閑話休題、このアルバムをトータルに俯瞰して思うのは、ガエルのポップ・センスにますます磨きが掛かっていること。楽曲次第でサイケにもアヴァンギャルドにもなるけれど、雑食性を保持しつつ、秘めた毒性をポップのヴェールに包んで提示している感覚がある。だから従来からのガイスター・ファンであれば、きっと前作以上に馴染みやすいはず。それは当然、ご新規ファンへのアピールにもなるだろう。王道ではないものの、AORテイストも隠し味的に。