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約半月に及んだ今回の入院は、これまで検査入院しか経験がなかったカナザワにとって、初めての本格的病院生活になった。でも病室でもスマホやタブレットが使用可能だから、ベッドから動けなくても、昔のように暇をを持て余すことがなかった。かくいうカナザワもストリーミングやyoutubeで音楽三昧の日々。サスガに今の若手アーティストの最新作を聴き漁るほどのエネルギーはなかったが、馴染みあるアーティストのカタログを発表順に聴いたり、ジックリ聴き直したいと思っていたアルバムを再訪したりと、まとまった時間が取れるのをイイことに、普段は出来ないような音楽の聴き方を試した。そこに首尾よくハマったのが、新録ベスト的なニュアンスを持つスティングのニュー・アルバム『MY SONGS』である。

「ここに収めた曲は、私の人生そのもの、といっていいだろう。それらを、再構築し、部分的に修正し、手を加え、そしてそのすべてを、今現在の視点で見つめ直してみた」(スティング)

多少 趣味に走るキライはあるものの、常に前進することを是にしてきた感のあったスティング。その彼が、こうした企画モノに手を染めたことが意外だった。よくある拝金主義的なセルフ・カヴァー集でないのは明らかだが、何故にいまコレなのか、その必然性が見えてこなかった。それとも、サスガのスティングも寄る年波に勝てず、キャリアを総括する気になったのか?

プロジェクトのキッカケは、本作スターターの<Brand New Day>の再構築。この曲のチャームとなったスティーヴィー・ワンダーのハーモニカはオリジナルのまま生かし、「今」を盛り込んでアップデートするパートはリレコして作り直す。スティングはこの作業を “re-imagine” と呼んだ。当初はこのリニューアル`・ヴァージョンをネット上で発表し、『MY SONGS』というツアーを行う予定だったらしいが、その手応えの大きさからアルバム・サイズに拡張することを決めたという。そうした手法はスティングらしいアイディアと思慮に富んだモノで、安易なセルフ・カヴァーものとは一線を画している。しかしその反面で、果たしてこの曲をリメイクする必要があったのか?、と腕組みしてしまう楽曲も。オリジナルを超越するのは難しいとしても、「あぁ、こういう解釈もアリだな」と素直に受け入れることができない、小首を傾げてしまうような再構築も少なからず収められているのだ。収録曲のほとんどがスティングのキャリア・ソング、という点にも疑問を感じざるを得ない。本当に “re-imagine” すべき楽曲をセレクトしたなら、もっと無名のレパートリーがあってしかるべき。切迫感が身上であるポリス時代のナンバーなんて、時代を超える楽曲そのものの魅力を描き出しつつも、やはりオリジナルには到底追い付かない。これならライヴで披露すれば十分だろ?、と思ってしまうトラックが少なくないのだ。

ちょうどこのアルバムをフィーチャーした来日公演が決まり、ネットでもその話題が盛り上がっている。確かにカッコいいリニューアルもあって、賛否はともかく、楽しんで聴けることは確か。でもカナザワ的には、ポリスの再結成ツアーがスティングのピークだったかな…。