philip bailey 019

美声ファルセットでお馴染みのアース・ウインド&ファイアーの看板シンガー:フィリップ・ベイリーの、17年ぶり11枚目のソロ・アルバム。まず、前作『SOUL ON JAZZ』から17年も経っていたのがビックリだし、いつの間にかそんなに多くのソロ作を出していた認識もなかった。でもそれだけ間が空いたのは、モーリス・ホワイトが実質的引退状態(16年没)となったE.W.& F.を全力で支えていたからだろう。また作品的にはゴスペル・アルバム、あるいは若干趣味的なジャズ作品などが多く、重量級の作品が意外に少ないことと関連しているように思う。この新作も、2年前から制作に入っていたという割には、ちょっと唐突に飛び出してきた感があった。

でも中身はかなりの充実度。そりゃあフィル・コリンズと手を組んでのヒット作『CHINESE WALL』のようなインパクトはない。けれどジョージ・デュークやナイル・ロジャースが制作した初期ソロ作は、大々的に売り出した割には、必ずしも期待通りの成功を収められなかった。だから前振りナシでツルッと出てきたコレは、その攻めの姿勢に意表を突かれた。と同時に、ソウル・クラシックにもスピリチュアル・ジャズにも、そしてフィーチャー・ジャズにも難なく乗ってみせるベイリーのしなやかな身のこなしに、今更ながら驚かされている。彼のように揺るがぬ個性(=ファルセット)を持つ人は、それが武器にも足枷にもなってしまうから…。

このアルバムの最初のキッカケは、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンとの邂逅。そして彼らの周辺にいるケンドリック・スコットやデリック・ホッジらがその輪に加わった。更にウィル・アイ・アムやビラルといったラッパー/シンガーが参加。こうした若手と対比させるかのように、チック`・コリアやスティーヴ・ガッド、ケニー・バロンといった大ベテラン、クリスチャン・マクブライドやリオネール・ルエケら中堅実力派も名を連ねている。

収録曲のラインナップも、結構なインパクトだ。カーティス・メイフィールド作品が<Billy Jack>と<We're A Winner>、マーヴィン・ゲイ<Just To Keep You Satisfied(別離のささやき)>、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァー時代の楽曲である<You're Everything>、そして何とトーキング・ヘッズ『REMAIN IN LIGHT』からの<Once In A lifetime>。しかもアルバムのラスト2曲は、アフロ・ジャズ<Long As You're Living>と、ファラオ・サンダース作であるアルバム・タイトル曲<Love Will Find Away>という、驚愕のラインナップが組まれている。それこそオリジナルでもフィリップとロバート・グラスパーが一緒に曲を書いていて驚くのに、他のカヴァー・セレクションのユニークなコトと言ったら… ちなみにアルバムのヴォーカル・プロダクションは、ハーヴィー・メイスンの息子が担当している。

全盛期のE.W.& F.、あるいは<Easy Lover>に代表されるポップ・ファンク・スタイルのベイリーは、ココにはいない。でもベイリーが加入した頃の、まだゴリゴリのジャズ・ファンクを演っていたE.W.& F.には、先進性の点で通じるトコロがある。売るコトに縛られず、ヒラメキに応じてジックリ作られたからこその内容。いやぁ、おみそれしました