mcnally waters

9月に東京・横浜でソロ公演が開催されることが発表されたばかりのラリー・ジョン・マクナリーと、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの息子ハリー・ウォーターズによる異色コンビ、マクナリー・ウォーターズのファースト・アルバムが日本発売された。日本でラリー・ジョン・マクナリーというと、81年の『シガレット・アンド・スモーク(原題 LARRY JOHN McNALLY)』、86年作『FADE TO BLACK』のブルー・アイド・ソウル色豊かなAOR系シンガー・ソングライターというイメージが強く、かつては “男リッキー・リー(ジョーンズ)” なんて異名をとったほどだ。

チャカ・カーンやフィリス・ハイマン、ロッド・スチュワート、ジョー・コッカー、ボニー・レイット、ブルース・ウィリス、ドン・ヘンリーやイーグルスなど、彼の楽曲は好評価されカヴァー需要も高かったが、ラリー自身が表舞台に立つことは、80年代後半以降、ついぞなかった。90年代半ばになってようやく何枚かの自主制作盤を作り、日本リリースした作品もあったが、内容は激シブ。ザ・バンドを更に地味にしたような泥臭いスワンプ・スタイルで、その筋の好事家ならともなく、80年代の彼に惹かれたAOR系ファンには、とてもとてもオススメできるシロモノではなかった。

対してハリー・ウォーターズはピアノや鍵盤をプレイし、20代の頃から(現在43歳)父ロジャーのツアー・バンドに参加してきたほか、自身のジャズ・カルテットなどでもアルバムを出している。ラリー・ジョンとの邂逅は37歳頃。その後一緒にプレイするようになって、このアルバムは17年に制作。今年春にはマクナリー・ウォーターズとして、フロイドのドラマー:ニック・メイスンのソロ・ツアーで前座を務めたそうだ。

そうした流れから、ラリー・ジョンとハリーのコンビで何か目新しいコトを演ってくれるのでは?、なんて淡い期待もあったが、左にあらず。ハリーはビル・エヴァンスとランディ・ニューマンから強い影響を受けていて、グレイトフル・デッドやドクター・ジョンなどをフェイヴァリットに挙げている。ハリーにとってラリー・ジョンとのコンビは、ようやく自分の好きなことを理解して一緒に演ってくれる、頼れる先輩パートナーなのだ。だからこのアルバムも、オールドタイミーなジャズやカントリー、フォーク、ブルース、スワンプ、ニューオリンズあたりの音にまみれた、アメリカンなルーツ・ミュージックになる。コレを聴いてカナザワが真っ先に思い浮かべたのは、エリック・クラプトンとの交友関係で知られる 故J.J.ケイルだった。

『シガレット・アンド・スモーク』のアートワークでは、タバコに火を点けるラリー・ジョンのバックに、ニューヨークの裏通りの建物が薄暗く浮かび上がっている。でもココに広がるのは、舗装もされていない荒野を貫くド田舎の一本道。その違いを素直に感受できる人なら、きっとラリー・ジョンの日本公演に足を運んでも後悔はしないだろう。もちろんスタイルにこだわらなければ、楽曲自体に当時の断片やメロディセンスが浮かんでくるのだが…。

ちなみに9月のソロ来日に合わせて、2012年に出た『シガレット・アンド・スモーク(コンプリート・セッションズ)』(2枚組)が、更なるボーナス追加で出し直されるそうです。