ウワノソラ 019

シクシクと心に染むような、そんなアルバム。『夜霧』と言うタイトルからは、ウェットな日本情緒的メンタリティを感じるけれど、実際の音はもっと “ひとり感” が強く、それでいて凜とした佇まい。孤独に打ちひしがれている感はなく、そこはポジティヴに、物思いに耽りながらも、おひとりさまを楽しんでいる体(テイ)となっている。最初に聴き流した時は、若干薄口で喰い足りなさが残ったものの、2度3度と聴いて、何を歌っているかが耳に入ってくるようになった後は印象が変わってきた。いわゆるシティポップ系の若手近作としては、浮かれたところのない、シッカリとした手応え、聴きごたえのある作品である。

このウワノソラは、作編曲とギター、プロデュースを担当する角谷博栄と、ヴォーカル:いえもとめぐみのデュオ。14年に3人編成でデビューし、17年からデュオとして活動している。同年2ndアルバム『陽だまり』をリリース。本来は2枚組として出す予定だったが、諸事情で1枚モノとして発売し、その時出せなかった楽曲を、今回の『夜霧』にまとめた。前作の選りカスとか残りモノではなく、2枚組を1枚づつ出すことになった時点で、歌詞に歌われた時間軸で振り分けたのだ。言わば、Day Edition と Night Edition。他に別働隊:ウワノソラ '67 名義のリリースもある。

めぐみ嬢のヴォーカルが、クールに突き放すように歌う体温低めのスタイルで、ちょい聴きでは無表情っぽいんだけど、実は楽曲トータルで表現するニュアンス重視の個性派。おそらく大貫妙子の影響が強いのだろう。でもその歌声こそが、 ウワノソラらしさを決定づけていて…。楽曲・サウンド面を一手に担う角谷クンも、やはりこの声ありきで曲を作っているのだろう。一度だけ、ブルーペパーズ福田の紹介でDJイベントの帰りに会ったことがあるけれど(福田は1曲コーラスで参加している)、しこたま呑んで酔っ払ってた中にもナイーヴなキャラが覗いて、ロジックよりもセンスで音楽を作るタイプだな、と思った。こうした才人が部屋に籠ってワンマン・レコーディングをカマすと、箱庭的な名盤・迷盤・紙一重になったりするものだが、ウワノソラは仲間を集めて生音で仕上げている点に好感が持てる。

実際にアルバムを聴くと、マーヴィン・ゲイ〜リオン・ウェアのオマージュや、まんま<マーヴィンかけて>という楽曲があったり、スティーリー・ダンの引用やホール&オーツからのインフルエンスがガチな楽曲があったりで、ニヤリと微笑みつつ、意外にヒネリが少ないのね、と思ったりも。でも一方で、コイツ天才なんて唸らされる瞬間も多々あり…。17年にはできていた楽曲をブラッシュアップしてレコーディングしたワケで、曲作りの発想はすでに過去のモノだから、この天才肌の部分が今はどう進化しているか、そこはこれからのお楽しみ。特にアルバム後半に並ぶ楽曲たちは、最近の他のシティポップ系には比較対象がすぐには見当たらない感があり、特別なポジションに滑り込めるのではないか。ハッキリ言って、若さに任せたガレージ・バンド系や宅録派の自己完結型シティポップには、ちょっと辟易としておるのです。

なおウワノソラは、来たる8月3日に青山 ”月見ル君想フ” で初のワンマン・ライヴがあるとか。既にソールドアウトらしいけど、コレは観ておきたいぞ、っと。