音盤_yocht rock

8月23日(金) 音盤&トークライブ Vol.16 ヨット・ロック講座@神保町・楽器カフェ。お暑い中、お集まり下さいました皆さま、どうもありがとうございました。ゆるゆるとした内容、カナザワなりのヨット・ロック分析でしたが、「ヨット・ロックってなに?」という疑問を解くヒントになれば幸いです。

DU BOOK刊の『ヨット・ロック』本によれば、ヨット・ロックとは日本でいうAOR的な音楽のこと。05年に配信されたインターネットのコメディ番組が元で、70〜80年代のヒット曲の誕生秘話を勝手に面白おかしくデッチ上げ、当時を知らない世代を巻き込んだ再評価ブームが湧き上がった、とある。大きな推進力となったのは、ヨット・ロック・レビューというカヴァー・バンドと、この手の音楽が大好きな俳優ジミー・ファロンが司会を務める深夜の音楽番組。ところがAORという言葉の一般的ではない米国での浸透の仕方と、AOR観が確立している日本、そのどちらとも異なる英国・欧州では、微妙に解釈のニュアンスが異なる。それを無理に定義するのではなく、違いを知っておきましょう、というコトなのだ。

まず最初のコーナーは、今回のヨット・ロック・ブームの象徴的なところから。まずは王道ロビー・デュプリーに、日本以外では無名だったためこのブームで発掘されてシンボル的存在に祭り上げられているネッド・ドヒニー、そして旬なアーティストが再考を推進したということで、ケニー・ロギンスとマイケル・マクドナルドを引っ張り出したサンダーキャット。05年に始まってたヨット・ロックが日本へ本格的に渡ってきたのがごく最近なのも、ココではAORという言葉が浸透していたことと、サンダーキャットの<Show You The Way>に驚いた人が多かったからだ思う。

ロビー・デュプリー / Navaguemos (Steal Away ふたりだけの夜のスペイン語版)
ネッド・ドヒニー/ What’cha Gonna Do For Me(デモ版)
サンダーキャット/ Show You The Way


続いて、米国の『ヨット・ロック』を翻訳したDU BOOKの本、それに連動したワーナー編集のコンピのヨット・ロック解釈をご紹介。日本のAORとリンクする部分はイイとして、日本的AOR感覚には入らないヨット・ロックを3曲。基本的にはウエストコースト色の強いアメリカン・ロック、米国でいうソフト・ロックもヨット・ロックに入る。他にビーチ・ボーイズとかスティーヴ・ミラー・バンドとか、グレイトフル・デッドも曲によって。まぁ <Love Will Keep Us Together>は、ドゥービー<What A fool Believes>の元ネタとか言われているから、当たらずとも遠からず、なんだけど、全体的に懐メロ志向の強いのが、米国ヨット・ロック解釈。

● 米国的ヨット・ロック
キャプテン&テニール / Love Will Keep Us Together(愛ある限り)
フリートウッド・マック / Rhiannon(Single Version)
ブレッド / Make It With You(二人の架け橋)

対してヨーロッパや英国は、AORといえば産業ロック/メロディック・ロック。日本的AORはウエストコースト・ロックと呼ばれていたので、それがヨット・ロックに移行した感がある。また英国はレア・グルーヴ・ブームの起点でもあるから、激レア・ネタの発掘が盛んに行われている。ドイツのレーベルが組んでいる『TOO SLOW TO DISCO』、フランス Favorite による『AOR GLOBAL SOUND』といったコンピ・シリーズは、まさにソレが顕著。日本のコンピに入る大物は数える程で、ローカルな自主制作盤とかシングル曲まで入ってきて玉石混交。アーチーを発掘したのは日本だけど、それをこのタイミングでコンピに入れて、オリジナルのアナログ再発までやったのは欧州だったし、カールトンの歌モノ提案もツボ。ジェフ・デイズもマニアには知られていたが、コレも欧州産コンピに収められた。

● ヨーロッパ的ヨット・ロック
アーチー・ジェイムス・キャヴァナー / It's Our Love
ラリー・カールトン / Where Did You Come From(彼女はミステリー)
ジェイ・デイズ / Long Way Home

休憩後は、海外とは違う日本のヨット・ロック観を。ミュージックマガジン3月号の『AOR・ヨットロック・ベスト100』は、6〜7割がいわゆるAORモノだが、そこに最近の若手アーティストがガンガン飛び込んでくる。音を聴けば確かに昔のAORやシティ・ソウルに影響されている人ばかりで、一応納得できるのだが、英米欧には「ヨットに乗って気持ち良さそうなのがヨット・ロック」という下地があるのに、日本解釈はそこを完全無視。打ち込みで密室性が高く、どこがヨットなの?というネタも多くて、個人的には激しく違和感を抱く。ライター陣の登場による選盤だったのと、雑誌の個性もあって、少々頭でっかちなチョイスになったか。現在進行形はイイことだけど、AORだって国や世代でに解釈が違うのに、それウィ一層ヤヤこしくしちゃってもなぁ…。ラー・バンド はそのアンチテーゼとしてのプレイ。自分のコレ好きだけど、ココじゃないだろう、と。一部で評価が高いヴォルフペックもちょっと変態チックで、自分は好きじゃない。CDが出てない最新作『HILL CLIMBER』は悪くないけど。ただし彼らにゲスト参加していたジョーイ・ドーシックはイイんだけどね。

● 日本的ヨット・ロック
メイヤー・ホーンソン / Cosmic Love(with Benny Sings)
トム・ミッシュ feat. デ・ラソウル / It Runs Through Me
ジョーイ・ドーシック with COCO.O / Don't Want It To Be Over
ラー・バンド / Clouds Across The Moon

で、前コーナーとは逆に、音的にはこの辺がヨット・ロックに入らないとオカシイ、というタマを。オランダで大人気のヴェニスは、まさにヨット・ロックど真ん中。今なら廉価で買えます。

●カナザワ的ヨット・ロック
ジョン・メイヤー / Still Feel Like Your Man
ジャック・ジョンソン / My Mind Is For Sale
ヴェニス / When I Come Back(The Hummingbird Song)

ボズ・スキャッグスなネッド・ドヒニーのコメントがSNSで拡散した他にも、ダリル・ホールやマイケル・マクドナルドなど、ヨット・ロック・ブームに否定的なアーティストは少なくない。でもその多くは、「彼らのようなアーティストと一緒にされるのは、とても光栄。でもヨット・ロックということなやイメージが良くない」という。しかしそいういうのは、ブームに関係なく、既にエスタブリッシュされている大物がほとんど。忘れられていたのに、このブームで再浮上が叶った者たちは “ヨット・ロック様さま” で、豪華客船でのヨット・ロック・クルーズにも積極的に参加している。日本では、どうやらあまり必要とされない言葉に思えるけれど、そんなレッテルとは関係なく、イイ音楽は後世に残していかないと。