kelly finnigan

AOR寄りの洗練されたブルー・アイド・ソウル・シンガーは少なくないが、その中でストロング・スタイルの強靭な喉を持つ人といえば、ビル・チャンプリンとマイク・フィニガンが双璧を成す。ビルはサンフランシスコのフラワー・ムーヴメント下でマニアックな人気を誇ったサンズ・オブ・チャンプリン出身。マイクはスワンプ系の出自を持ち、ジミ・ヘンドリックスやジョー・コッカー、エタ・ジェイムズらの作品にも参加している。でもそれより重要なのは、全盛期のデイヴ・メイスン・バンドの参謀/キーボード奏者として長く活躍したこと。そのマイク・フィニガンの息子が、このケリー・フィニガンである。

本作はケリーの初ソロ・アルバムだが、既に結構なキャリアを築いていて、これまではベイエリアのサイケデリック・ソウル・バンド、モノフォニックスのメンバーとして知る人ぞ知る存在だった。フランス・モータウンから登場したベン・ロンクル・ソウルというレトロな若手シンガーをサポートしていたのが彼らで、16年の来日公演にも帯同している。生まれは81年というから、親父の全盛期はまだ生まれていないことになる。

…にしても、聴いてビックリ ケリーのコレは、ブルー・アイドという小洒落たシロモノではなく、モロに60年代的なコッテコテのヴィンテージ・ソウル・アルバムだ。前情報なしに聴いたなら、誰もがその頃に録音された作品だと勘違いするだろう。それこそスタックスとかヴォルトとか、そういうディープ・ソウルな質感。スロウではインプレッションズを連想させたり、アル・グリーンを髣髴させたりする。父マイクはかなりのハード・シャウターで、時にスケール感いっぱいにガナりまくったりもしたが、息子ケリーの歌声はもっとソフトで繊細。ディープなのに内に籠る感覚で、曲調は逆にアーシーなのが面白い。

こうしたソウル好きな側面は、当然父親譲りと思いきや、実際は14歳の時に出掛けたパーティで回していたDJのプレイに感化され、自分でもサンプリングや打ち込みに手を染めたという。そこでネタになっているヴィンテージ・ソウルにハマった。それこそキーボードで曲作りを始めたのは、20代になってから。親父のメイン楽器であるハモンド・オルガンを必死に練習し始めたのは、そのあとというから驚かされる。

それでもやはり、深いDNAを宿していたのだろう。ケリーのスタイルは流行やファッション性とは程遠く、ソウルのルーツを辿るような作品となっている。<Can't Let Him Down>なるスロウ・バラードでは、ジェイムス・ギャドソンがドラム、父マイクがオルガンで参加。我々オヤジ・ファンをニヤリとさせてくれるのだ。ちなみにカナザワ、マイクがトラで参加した時のタワー・オブ・パワー公演を、親父目的で観に行った不届き者です…