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今年5月にプライヴェートで来日し、急遽、日本人ジャズ・トリオのゲストとして六本木のクラブに出演したフランク・ウェバー。その時に持ってきていた2枚の自主制作盤が、拙・解説付きの国内流通盤として改めて発売された。正規リリースとしては、10年春に日本で出た3作目『BEFORE YOU』以来9年ぶり。スティーヴ・ガッド(ds)やリチャード・ティー(kyd)、ジョン・トロペイ(g)、ウィル・リー(b)、マイク・マイニエリ(vibe)らが参加した78年の1st『…AS THE TIME FLIES』、イーグルス<Take It To The Limit>の名カヴァーを収録した80年の2nd『FRANK WEBER(ニューヨークのストレンジャー)』とAORの名盤・好盤を出したフランクだったが、彼自身は当時もっとジャズっぽい方向へ進みたいと望んでおり、それ以降は長きに渡って表舞台から遠ざかることになった。

今回の2作も、いわゆるAOR作品ではない。近年のフランクは小野リサに傾倒。その影響もあって、昨年レコーディングした『TRUE LOVE』は、ジャズ・スタンダードとブラジリアン・スタイルをミックスしたカヴァー・アルバムとなった。ブックレットの楽曲解説はフランク自身(日本語訳あり)。オープニング<Travelling Boy>はポール・ウィリアムス&ロジャー・ニコルスの作品で、ポールがソロ作『LIFE GOES ON』に収めたほか、アート・ガーファンクルやルーマーも歌っている。オリジナルは1曲だけ。基本フォーマットはフランク自身の打ち込みながら、過去3作にも参加したジョン・トロペイ、フレットレス・ベースのマーク・イーガン(パット・メセニー・グループ〜エレメンツなど)などが参加している。

このようなジャズとブラジル音楽をミックスして円熟させる手法は、マイケル・フランクスやケニー・ランキンに通じるもの。とりわけカヴァー曲を自分のセンスで染め上げていく点、楽曲のストーリー性にこだわるところはケニーに近い。事実フランクは、ココに収めたイヴァン・リンスの<Even You And I>をケニーのブラジル楽曲集『HERE IN MY HEART』(97年)で知ったそうで、09年に急逝したケニーへのトリビュートとしている。

もう1枚の同発作『UNSPOKEN』は、ヴォーカルのないピアノ・インストゥルメンタル集。実はフランク、シンガー・ソングライターとしてデビューしたものの、それ以前からジャズ・ピアニストとしてクラブ出演していたのだ。ただしコレは、全16曲中10曲が08年にレコーディングされた蔵出し音源。ベーゼンドルファーのインペリアルと呼ばれる世界で100台ほどしかない最上機種のフルコンサート・グランドピアノで演奏されている。そして残り6曲は、今回の2作『TRUE LOVE』と『UNSPOKEN』のアートワークを担当したキャンドル作家:米澤純氏と出会い、彼女が出したキーワードからインスピレーションを受けて創ったピアノの即興演奏。アルバムとしては、ピアノ・ソロによるアンビエントな作りだが、名器ベーゼンドルファーの特別モデルの音が楽しめるのだから、ピアノ・フェチには垂涎の一作だろう。是非、チカラのあるアンプと臨場感溢れる大型スピーカーで対峙して戴きたい。