ole borud_outside

待ちに待ったオーレ・ブールドのニュー・アルバム『OUTSIDE THE LIMIT』が、もう間もなく、10月2日に日本発売。今回もシッカリ解説を書かせて戴いた。アルバムとしては、前作『STEPPING UP』から約5年ぶり。その間に2度の来日公演(通算3回目/他にプロモ来日あり)を行なっているので、そうお久し振り感はないのだが、北欧のAORシーンが活況を呈している中、ようやくの “真打ち登場” ではある。もっともオーレ自身はずっと忙しくしていて、17年初頭のジャパン・ツアー後は、彼のもうひとつのフィールドであるデス・メタル方面に邁進。欧米混成の新しいクリスチャン・デス・メタル・プロジェクト:フレッシュキラーのアルバムを作り、ライヴを行っていたらしい。それがハネたところで、再びAORに戻ってきたワケである。

昨年11月以来、既に3曲、<Good Times>と<Fast Enough>、アルバム・タイトル曲<Outside The Limit>がリード・シングル的に先行配信されていて、お聴き及びの方も多いだろう。どれもオーレらしいナンバーで、アルバムへの期待感を煽るナイス・トラック。それでも<Good Times>は 80's ディスコ・ブギーからのインフルエンスをオーレ流儀のミッド・グルーヴに注入した感があり、続いての<Fast Enough>は、シティ・ポップ風味のスカッと爽快な軽めの仕上がりになっている。<Outside The Limit>は最もダンサブルな楽曲で、キレのあるグルーヴが特徴的だ。

他の収録曲にも急ぎ触れておくと、スターターの<Put My Money>は、ジノ・ヴァネリ風のドラマチックなイントロからスティーリー・ダン的展開に突入していく、思わずニンマリのAORチューン。<Always Love You>は得意のズンズン迫るノリの曲で、ホーンが効果的。リッチなR&B色を湛えた<Come And Recue Us>は、リフで畳み込むコクの深いミディアム・ファンクである。

一方で<Talk To My Lawyer>や<Blaming Game>、<Can't Pretend>、<Waiting For The Rain>あたりは、少し陰りのあるメロディと変則的コード・プログレッションで、緻密なアンサンブルを聴かせる。スレートに言ってしまえば、ペイジスからのインフルエンスを漂わせたトラックで、一番 AORファンの琴線を揺らすところかも。

レコーディング・メンバーは日本のファンにもお馴染みのツアー・メンバーで、ルーベン・ダーレン(ds, perc, kyd)、ラーズ・エリック・ダーレ(b)、フローデ・マンゲン(kyd)、マルクス・リレハウ・ヨンセン(g)にホーン・セクション3人というラインナップ。作編曲はもちろんオーレで、作詞のみいくつか共作がある。プロデュースとミックスはドラムのルーベンが担当。オーレの歌のピッチの正確さ、声量や表情といったヴォイス・コントロールの完璧さは言わずもがなだが、スタジオではギターもほとんどオーレ自身が弾くので、それもひとつの聴きドコロだ。といっても思い切りアドリブ・ソロを打ちカマすはずもなく、<Always Love You>でちょっとアグレッシヴなプレイを披露する程度の、何ともインテリジェントな作り。もっと やんちゃしても誰も文句を言わない、むしろファンは喜ぶのではないかと思うが、如何だろう?

前作『STEPPING OUT』は 、ファンク色が控えめで、少し渋めの印象を抱かせた。対してこの新作は、少しだけシーンの潮流に目を遣った感があるせいか、個人的には地味には感じず、コンパクトにまとまっている感想を持つ。山椒は小粒でピリリと辛い、ってヤツだ。日本では4作目ということで、初期作みたいなインパクトこそ持ち得ない。けれどその分、自分の感性の赴くままに、自然体で創っている気がする。ヘヴィ・メタルから足を洗ってソロ活動を始めたが、それが軌道に乗ってきたので、前作あたりから二足のワラジを履くことにした。それがオーレに肩の力を抜かせたのではないか。それでも作品や演奏のクオリティには、一切の妥協を許さない。だからこうして彼の美学が貫かれたアルバムになる。

現在はスカンジナヴィア・ツアーに出ているオーレ一行。その少し前には、何と90年代後半に日本でも大人気を博したノルウェー人シンガー:トレーネ・レインとの共演シングル<Where Do We Go?>をデジタル・リリースしている。現時点で来日の話は具体化していないけれど、きっと来年は早々に来てくれるだろう。願わくば3管のホーン・セクションも一緒に。とにかくは間もなく発売のニュー・アルバムをマスト・バイ 日本盤には前作収録<Drivin'>のライヴ・ヴァージョンがボーナス収録されるそうだ。